正義の天秤

 とある駅の中に今回の事件の犯人、根本大吾の姿があった。根本は三人目のターゲットである鈴木正樹を探していた。


 「あの野郎、絶対ぶっ殺してやる!」


 根本がそう呟いていると、何かから逃げるように周りを見ている一人の男が視界に入った。


 「鈴木……!」


 根本は今までにない強力な殺意を胸に、鈴木に近づいた。



 同時刻、中田達、特別危険犯罪対策室のメンバーも同じ駅に来ていた。各々が散らばって根本と鈴木を探している。すると、道重が


 「おい裕二!売店フロアで根本を見つけたぞ!鈴木も近くにいる!」


  と通信機に連絡を入れた。


「了解、すぐそっちに向かう。シゲさんは近くで二人の様子を探って」


 数分後、中田達は売店フロアで張り込んでいる道重と合流した。


 「あそこだ」


 道重は売店フロアの通路の方を指差した。そこには通路を早足で歩いている鈴木と、後を尾けている根本の姿があった。鈴木は根本の存在に気付いていない。


 「よし、行くよ」


 中田を先頭にメンバーは根本に近付いた。


 「根本大吾!防衛省だ!」


 中田の声に気付いた根本は鈴木の方へ走り出した。続けて鈴木が反応し、また鈴木も走り出す。中田達は走る二人を追いかけた。五分近く追いかけっこが続き、遂に中田達が駅の地下駐車場にいる二人に追いついた。だが、鈴木は既に根本に捕まっていた。中田達は、雷切を構えている。


 「く、来るな!」


 左手で鈴木の胸ぐらを掴んでいる根本は右手から紫色の光弾を発射した。その光弾は、仁藤の足元に向かってきた。


 「うわ、熱っ!」


 その光弾は増幅した紫外線を圧縮したものだった。光弾が着弾した部分から煙が上がっている。


 「く、くそ!今さらなんなんだよ!あの時、ちゃんと謝っただろ!そ、それとも金か?お前が欲しいものならなんでもくれてやる。金だっていくらでも払ってやる!だ、だから殺すな!な?」


 「違う!金が欲しいんじゃない!お前らのせいで、お前らのせいで……俺は、地獄を見せられた!だけど、力も手にした。俺はこの力でお前に罰を与える。そして、これからも権力に隠れた悪人に正義の鉄槌を下す!俺こそが正義だぁぁぁぁぁ!!」


 根本は自分の歪んだ考えをさらけ出した。すると次の瞬間、根本の右手が紫色に光り出した。それに気付いた中田は雷切を一発撃った。しかし、根本は右手で紫外線のバリアを作り出し無効化した。


 「こいつの前にまずはお前らからだ」


 根本はそう言うと、鈴木の胸ぐらを掴んでいた左手を離した。そして両手からさっきの光弾を右、左の順に撃った。


 「散らばれ!」


 中田が咄嗟に指示を出す。メンバーは、二手に分かれて光弾を避けた。中田達は柱や車に隠れながら、雷切を撃ち応戦するが、根本の紫外線のバリアで電圧が無効化されてしまう。


 「おい、このままじゃ埒が開かねえぞ!」


 道重が一緒に隠れている中田と酒井に言った。車の陰から酒井が根本の顔を覗きながら、ある作戦を二人に言った。


 「自分が根本の両手を塞ぎます。その隙に、二人は奴の背後に回って雷切を撃って下さい!」


 酒井は中田と道重を残して根本の方に突っ込んでいった。


 「お、おい!」


 「シゲさん行くよ!」


 酒井を止めようとした道重を中田は制止し二人は根本の背後へ回るべく、行動を開始した。そして酒井は根本の放つ光弾を避けながら近付き、根本の素人同然のパンチを華麗に受け流し、遂に両手首を掴むことに成功した。


 「もう諦めろ根本!自分をいじめた人間にこんな形で復讐するのは間違っている!お前がやっていることは、罰を与えることでもなく、正義の鉄槌を下すことでもない。ただの人殺しだ!!」


 「……うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!黙れ!!俺が……俺こそが正義だ!!」


 根本は怒り叫び、酒井が掴んでいる両手首の部分に紫外線を放出した。紫色に光っているその部分は、掴んでいる酒井の手を焼き始めた。


 「うあぁぁぁぁぁ!!二人共早く!!」


 苦しんでいる酒井を見てにやけている根本の背後から、中田と道重が雷切をそれぞれ一発ずつ撃った。中田の電圧は根本の腰に命中し、道重の電圧は背中に命中した。すると次の瞬間、根本は気を失い酒井が手を離すと、後ろに倒れた。


 「お見事、シゲさん、酒井君」


 中田が二人のフォローをする。


 「ふん、いつも通りだよ。それよりお前さん、火傷してるじゃねえか!」


 「本当だ、すぐ治療しないと!」


 残りの三人も合流し、冬木が酒井の手を見てそう言った。


 「そう言えば鈴木は?」


 湊が鈴木のことを思い出して言った。メンバーが周囲を見渡すと、鈴木は近くの柱に寄りかかって座っていた。


 「は、はは、はははは。……やったぞ!生き延びたぞ!!」


 鈴木はまるで何かに勝ったかのように、高笑いをしている。そして立ち上がり、中田達の方へと近付いてきた。


 「お前ら、誰だか知らないがよくやっ……」


 鈴木は最後まで言い終わらずに、その場に倒れた。湊が雷切を撃っていたのだ。


 「くたばれクズ!!」




 数十分後、駅の地下駐車場には多数のパトカーと救急車が到着していた。根本は対狭霧用手錠をかけられ、田口と一緒にパトカーに乗せられるところだった。救急車の中で治療を受けて両手に包帯を巻いている酒井は、中田に


 「これから根本はどうなるんですか?」


 と聞いた。すると一緒に救急車に乗っていた中田が一呼吸して、こう答えた。


 「彼は裁判の後、狭霧専用の刑務所に入ることになる。量刑はきっと重いものになるだろうね」


 「鈴木は罪に問われないんですか?」


 「今、恐喝の容疑で捜査一課が鈴木の自宅と会社のデスクを家宅捜査しているよ。パワハラの証拠が見つかるのは時間の問題だろうね」


 「そうですか。今回の事件、やはり根本の言っていることが正しかったでしょうか?権力に隠れている悪人に罰を与えることが正義である……」


 酒井は根本の言っていたことを思い出しながら、中田に言った。


 「いや、それは大きな間違いだよ。彼は復讐の為だけに自分の能力を用いて吉田と伊藤を殺し、そして鈴木までも殺そうとした。それは自分のためにやったことであり、権力に隠れている悪人と何ら変わらない。それは決して正義と呼べるものではないよ」


 中田は酒井の言っていることを否定した。そして表情を変えて酒井に


 「真面目な話はここまでにして……帰ったら、君の歓迎会だ!いい店予約しておいたから!」


 と言い、嬉しそうな顔をした。


 「はい!酒井悟、喜んで歓迎されます!!」


 酒井は笑顔で中田に敬礼した。同時に救急車のドアが閉まり、根本を乗せたパトカーとに続いて、中田と酒井を乗せた救急車は駅の地下駐車場を出発した。


 


 

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