罪と罰
「どうぞ、お掛け下さい」
「失礼します」
中田と酒井は、被害者の吉田と伊藤が以前勤めていたコピー機の販売会社「カオン」に来ていた。中田達はそこで、当時二人の上司だった人間に話を聞くことが出来た。
「早速なんですが、この二人は何故こちらの会社をお辞めになったんですか?」
中田が本題に入る。すると上司は沈んだ表情で語り始めた。
「一年程前になります。その二人は、ある社員のパワハラに関わっていたそうなんです。彼が私にパワハラのことを相談して来たのは、三ヶ月前のことでした。パワハラのことを聞いた私は、すぐその二人をクビにしましたが、いじめられていた彼もまた一ヶ月程前に辞めてしまいました。大変お恥ずかしい話です」
上司は膝の上に乗せている拳《こぶし》を力いっぱい握りしめている。そんな上司の姿を見て、中田は何も言わずにパワハラされていた元社員の名前を聞いた。
「失礼ですが、そのお辞めになった方のお名前は?」
「はい、根本大吾と言います」
上司はそう言うと、パワハラ被害者である根元の写真と資料を見せた。
「ちょっと失礼」
中田はその写真とに目を通した後、八咫鏡《やたのかがみ》で履歴書の写真を撮った。
「ご協力ありがとうございました。では」
中田と酒井が一礼して帰ろうとしたその時、
「あの、ちょっと待って下さい!」
「どうかされました?」
酒井が上司の声に反応する。続けて中田が上司の方を振り向いた。
「実は吉田と伊藤の他にもう一人、パワハラに関わっていた人間がいるんです」
「どういうことですか?」
中田が上司の発言を問いただす。
「その社員の名前は、鈴木正樹。うちの会社の社長の息子です。パワハラのことがバレて処分はくだりましたが、私の力が及ばず二週間の謹慎処分と、他部署への異動でクビになることはありませんでした。多分、このことを聞いた根本君は一生鈴木を恨み続けるでしょう」
上司は顔を上げたままその場を動けずにいた。
「あの、刑事さん。この事件、根本君が関わっているんですか?」
「それはまだ分かりません。ですが、彼がこの事件に関わっているのなら、私達は彼を止めなければならない」
中田はいつにもない真剣な表情で上司に語った。そして、鈴木の写真と資料を受け取ってカオンを出た。カオンを出た中田達は八咫鏡で
「
中田は上司から聞いた話の内容をラボのメンバーに話し、八咫鏡で根本と鈴木の写真と資料を送った。すると真ん中に立っていた青い光の冬木が中田に
「鈴木には話を聞いた?」
と質問した。ここで酒井が口を挟んだ。
「それが鈴木は今、有給を使用して旅行中だそうで・・・・・・実は鈴木はカオンの社長の息子なんだそうです」
「さすが、お坊ちゃまはやることがちげえな」
冬木の隣にいた青い光の道重が渋い声で悪態をつく。中田と酒井は苦笑いして道重の悪態に応えた。その後真剣な表情に戻った中田が冬木に伊藤の皮膚サンプルの解析結果を聞いた。
「先生、そっちは何か分かった?」
「変色していた伊藤の皮膚は日焼けの痕だということが分かったわ。それでね、もしかしたら根本の能力が分かったかもしれない。一旦八咫烏に戻ってくれる?」
「了解、じゃあこっちの座標を送るね」
中田はそう言うと八咫鏡を操作して通信を終了した。
八咫烏内の司令室にメンバー全員が集合していた。冬木が口を開く。
「二件目の被害者伊藤の日焼けの痕が気になって、最初の被害者吉田の遺体の解剖記録をもう一度見直してみたの。そしたら心臓部がある皮膚の部分が黒く変色していたという記録が残されていたわ。そして二つの現場に残されていた焦げの跡と、遺体付近のアスファルトの劣化、心臓のない遺体。このことから考えられるのは・・・・・・」
「考えられるのは?」
中田と酒井が口を揃えて聞く。
「根本は紫外線を操る狭霧よ!」
「紫外線!?」
また中田と酒井が口を揃えて言った。
「まず気になったのは日焼けの痕。これはまさしく紫外線によるものだわ」
「じゃあアスファルトの劣化も?」
冬木が次に言いそうなことを酒井が質問する。すると仁藤がその質問を待っていたかのように答えた。
「そう、そこが気になって国土交通省に問い合わせてみたんだ。そしたらアスファルトも太陽の紫外線で劣化することがあるみたいなんだ。でも、紫外線によるアスファルトの劣化は長い時間をかけて劣化する。しかも工事記録を調べたら、二つの駐車場はどっちも
仁藤が説明し終わると、続けて中田が気になっていた疑問をぶつける。
「じゃあ被害者の遺体から心臓がなくなっていたのは?」
「それは酒井君の言った通り、心臓だけを燃やした可能性が高いわ。ただし、火ではなく、紫外線でね」
冬木が中田の疑問に答える。
「実は紫外線による日焼けって
なら・・・・・・」
「心臓だけを燃やすことは十分に可能ですね」
酒井が後に続けて言う。
「私も詳しいことは分からないけど多分根本は、体から紫外線を放出し、増幅することができる能力の持ち主。そして、右手か左手を被害者の心臓部に当て、超強力な紫外線を当てて心臓を燃やし、死に至らしめた。だけど、まだ力のコントロールが不完全だったのか、その超強力な紫外線を一部分から出すことができず、周りに放出してしまった。例の焦げはその跡ね」
冬木が今回の事件のトリックを説明した。それを聞いていた酒井は驚愕していた。
「だから言ったでしょ、狭霧は普通では考えられない現象を起こすのよ」
湊が当たり前のように言った。そしてパソコンを操作し、モニターに二つの画面を映し出した。
「事件が起きた時間帯の二件の現場付近の防犯カメラの映像を調べました。顔認証にかけたところ、それぞれの現場で根本と被害者の姿が確認されています」
モニターの左側の画面には吉田の後を尾行している黒いパーカーを着て、フードを被った根本が映っていた。右の画面にも同じ姿の根本が伊藤の後を尾行している。この画面をみた中田は
「根本が犯人で間違いないね。動機は自分にパワハラをした人間達への復讐。よし、根本が鈴木を殺す前に彼を捕まえるよ。彩香ちゃん、根本の自宅の住所は?」
湊は根本の写真と資料、八咫烏の現在地の座標を画面に映し出した。
「現在地から三十キロ先のアパートです」
「僕、酒井君、先生、シゲさんの四人で根本の自宅に突入する。仁藤君と彩香ちゃんは上空でバックアップ!」
「了解!」
八咫烏は根本の自宅アパートへと向かった。
根本の自宅アパート一階、根本の部屋の前に中田、酒井、冬木、道重の四人がいた。四人全員は電圧衝撃銃「雷切」《らいきり》を構えている。中田が大家から借りた合鍵を使ってドアを開ける。そして酒井、道重、冬木、中田の順に突入した。
「クリア!」
「クリア!」
「クリア!」
「クリア!誰もいません!」
各々が部屋の中をクリアリングするが、中には誰もいない
「根本はどこに行ったんでしょうか?」
酒井が部屋の中を調べていると、あるものが目に入った。
「中田さん!!」
酒井が中田達を呼ぶ。なんと、壁一面に吉田、伊藤、鈴木の三人の写真が貼ってあったのだ。そして、吉田と伊藤の写真には赤色のペンで大きなバツが書かれていた。すると、四人が片耳に付けている通信機に湊から連絡が入った。
「主任大変です!今、鈴木が乗る予定の新幹線が到着する、駅の防犯カメラに鈴木の姿を確認しました!しかも同じ駅の中に根本もいます!!」
「多分、ニュースで事件を見て次は自分だと思い、身の危険を感じて帰って来たんだろう。ちょうどその頃、根本は会社に乗り込んで鈴木を殺そうとしたが、鈴木が旅行中だと会社から聞いた。そして、今日の新幹線で一日早く帰ることを偶然知って駅に向かった。」
中田は冷静に分析したが、焦った表情で
「鈴木が危ない、駅に向かうよ!」
と、号令をかけた。四人は八咫烏に乗り込み、駅に向かった。
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