心臓のない遺体
「仁藤君、あれ酒井君に渡しといて」「了解です」出入口である貨物室でスーツの襟を正して、着陸の時を待っている酒井に仁藤は持っていたアタッシュケースから中に入っている拳銃と手錠、手のひらサイズのデバイスを見せた。
「これは電圧衝撃銃
二つの道具の説明を仁藤が終えると酒井は雷切と手錠を付属していたホルスターにしまい、腰に付けた。そして仁藤は三つ目の道具であるデバイスを渡した。「これは通信デバイス
開いた扉の先には黒いスーツを着た男が一人立っていた。「酒井君、こちら公安の田口さん」他のメンバーと一緒に八咫烏から出た中田が酒井に紹介する。「公安の田口です」田口はそう言うとメンバーに向かって敬礼をした。敬礼を返したのは中田と酒井だけだった。そこに遅れて八咫烏から出てきた道重が合流した。道重は八咫鏡を操作すると、八咫烏は離陸し、姿が見えなくなった。
「ここが犯行現場です」中田達が田口と合流した場所から十メートル程先の裏路地の駐車場に犯行現場はあった。
「被害者は吉田秀雄24歳。建設作業員で昨日午後11時頃、通行人が倒れていた被害者を発見して警察に通報したそうです」田口はそう言うと持っていたスマホを操作した。すると中田達の持っている八咫鏡に被害者である吉田の顔写真と、遺体となって発見された吉田の写真、事件の捜査資料がファイルで送られてきた。
「解剖の結果、死因は出血死。それと遺体は心臓だけが綺麗になくなっていたそうです」
田口が被害者の死因と遺体の状態を説明した。現場のアスファルトの床は血が混じって黒く変色していた。その床を見て、仁藤は背負っていたバッグから小型のドローンを取り出した。
「よし、DNA採取完了、それと床のサンプルも採取してと......」仁藤は採取したサンプルをバッグから小さな袋を取り出ししまった。続けて仁藤はドローンで犯行現場を調べ始めた。
遺体のあった床を見つめる中田が「心臓だけない、か......。酒井君、どう思う?」と酒井に意見を求めた。
「そうですね......。狭霧は何らかの方法で相手の体から心臓を抜き取れる能力を持っている......とか?」酒井は自分の推測を中田に言ってみた。「何らかの方法って何だよ」と道重が当たり前の質問をする。「そ、それは......」酒井は道重の的を射た発言に返す言葉もなかった。
「ねえ、みんな、ちょっと来て!」冬木がメンバーを呼ぶ。冬木が見ていたのは被害者が倒れていた場所のすぐ近くにある自動販売機だった。「ここ、なんか黒くない?」冬木が指差したのは、硬貨投入口の下の黒くなっている部分だった。「本当だ。さすが先生」仁藤は冬木をおだてると、明らかに自動販売機のデザインではない黒い部分をドローンで調べた。
「これは何かが焦げた跡だな」仁藤がドローンを操作している画面を見てそう言う。仁藤の言葉を聞いて酒井がまた推測をする。「もしかして火を操る能力とか!」酒井は自信満々に言うが、その推測に冬木が口を挟む。「でも解剖記録では遺体には火傷の跡はなかったそうよ」「うーん、謎だね......」捜査が進まず、沈黙の雰囲気が漂う現場に一本の電話が鳴った。
電話は田口に来ていた。「田口だ。何?!」「どうしました?」驚く田口に中田が電話の内容を聞く。
「ここから数キロ先の駐車場で殺人事件があったそうです」田口から電話の内容を聞いた中田は田口に、「田口さん、遺体の近くに焦げたような跡はなかったか聞いてもらえますか」中田の伝言を聞いた田口は電話の相手にそう伝えた。「ああ、ああ、そうか、分かった。中田さん、遺体の近くの縁石ブロックに焦げた跡があったそうです」田口は早口で言った。
「中田さん」「間違いない、ここと同じ狭霧の犯行だね」酒井の言いたいことを当てるように、中田は確信のある発言をした。
「僕と仁藤君、酒井君で現場に向かう。残りの三人は八咫烏に戻ってて。先生とシゲさんはラボでサンプルの解析、彩香ちゃんは吉田の身辺について調べて。」「了解、何か分かったら連絡するわ」中田の的確な指示に冬木が応えた。
中田、仁藤、酒井の三人は残りのメンバーを残して、田口の乗って来た車で次の犯行現場に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます