狭霧

 「あの、中田さん」「ん?何?」クローク装置が作動していて周りからは見えていない、移動中の八咫烏のブリッジで本を読んでいる中田に、酒井はいくつかの質問をした。

 「これ、ステルス飛行する意味あるんですか?」「一応僕達は非公式の部隊だからね。旅客機に乗ってる人がこの機体見て騒いだら色々問題あるし、ましてや哨戒中の戦闘機に未確認の飛行物体だと思われて攻撃されたら僕達の命が危ないからね。あ、この機体はミサイルとか付いてないから大丈夫。防衛用の誘導ドローンしか付いてないから。でもあの時はヤバかったなぁ。天気を操る狭霧に会った時......」

 「あー、あれヤバかったですよね」中田の話を遮るようにその場にいた仁藤が喋る。「あいつめちゃめちゃ雷落としてくるから、あの時上空の八咫烏からドローン出して避雷針代わりにしたんですよねー。おかげでドローン全部ぶっ壊して、後で防衛大臣にめちゃめちゃ怒られましたよね」

 「そうそう!君達は私の政治生命を終わらせる気か!ってね。あの時の防衛大臣の顔と来たら......」二人の笑い声が部屋に響く。

 「笑い事じゃないですよ!あの時中にいた私まで怒られたんですからね!」席に座ってスマホの画面を見ていた湊が笑っていた二人に不満を言う。「ごめんなさい」と二人は口を揃えて謝罪した。コメディーのような一連の流れに酒井は苦笑すると、真面目な顔付きで次の質問をした。


 「能力者はなんで狭霧って呼ばれてるんですか?」  「ああ、それはね......」

壁際にある観葉植物の手入れをしている冬木が答えた。

 「彼らの能力って通常の現象では考えられないようなことを起こすのよ。それって普通の考え方では見えないじゃない?つまり視界を遮る霧を起こすから、日本神話に出てくる霧を起こす神様のアメノサギリになぞって狭霧って呼ばれてるの。ちなみに名付け親は私です」器用に手入れをしている冬木は自慢そうに語る。狭霧の名前の由来に関心している酒井に向けて中田が補足説明をする。

 「狭霧についてはまだ分かってないことが多くてね。生まれつき力を持った者もいれば、突然力に目覚める者もいるんだ。一説によると、後者は衝撃的な体験をすると力に目覚めるんじゃないかって言われているが、本当かどうかは分からない。それと、狭霧は力に目覚めた時にDNAも変化してしまうんだ」


 中田の説明を聞いた酒田は表情を変えず、次の質問をする。


 「どうして自分をチームに入れたんですか?」すると酒井は「君の趣味に興味を持ってね。君、大のオカルト好きなんだって?教官から聞いたよ。だから君のオカルト知識が役に立つんじゃないかと思ってね」と中田は気さくに答えた。その瞬間、何かを期待していた酒井の顔は一気に暗い表情になった。

 「そんな顔しないでよ。ほら、クッキー食べる?」中田はテーブルに置いてあるクッキーを取って、落ち込んでいる酒井に渡した。酒井がそのクッキーを食べようとした時、渋い声の機内アナウンスが鳴った。

 「おう、現場付近に着いたぞ」パイロットの道重が到着のお知らせをする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る