第3話

 「...きて、佳奈さん起きて。」誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。「純一?」「おはよう、佳奈さん。今日仕事でしょ?ほら、早く朝ご飯食べないと遅刻しちゃうよ。」そうだ、この塩顔のイケメンは純一、昨日から私の彼氏になった男だ。正確には「カスタム彼氏」というアンドロイドだが...。「弁当も作っておいたから、ここに置いておくね。」「あ、ありがと。」起きたばかりでまだ頭が回っていない私をよそに、純一は洗い物をしている。食卓に並んだ朝食と弁当を見て、これは現実なのかと自分の頬をつねった。痛い。やはりこれは紛れもなく現実だ。「ごちそうさまでした。」その言葉を口にしたのは何年ぶりだろうか。こんな有意義な朝は久しぶりかもしれない。化粧をし、スーツに着替えて家を出ようとした時、純一が玄関まで来て「いってらっしゃい。」と言った。「いって...きます...。」「いってらっしゃい」という言葉を家族以外の、しかも男に言われたことに衝撃を受けた。マンションから最寄りの駅まで、純一の「いってらっしゃい」が頭から離れることはなかった。「いけないいけない、しっかりしろ、私。」そう気持ちを切り替えて、私は電車に乗った。電車の中でスマホをいじっていると、メッセージがきた。「カスタム彼氏」の販売業者からだ。メッセージには、専用のアプリと連携することで彼氏の位置情報、付き合って(起動して)からの日数、正常に機能しているか、などの情報が閲覧できるらしい。そして注意書きのところに、こう書いてあった。「カスタム彼氏は彼氏一人一人にオリジナルのパーツを使用しています。もしも機能が停止致しましても、同一の個体を作ることが出来ないことをご了承ください。」と。同じ彼氏は作れないのか...。そこが心配だが、丁寧に扱えば問題ないだろう。そんなことを思っていると、会社の最寄りの駅に着いた。


 「どうしたのよ、その弁当。いつものより華があるじゃない。」ランチタイムで弁当を食べ始めようとした時に失礼な発言をしたのは、中村真里。私の同僚であり、親友の一人でもある。「いつものよりって何よ!私の弁当はいつも華があります。失礼しちゃうわね!」「ごめんごめん、冗談だって。でもあんたがいつも作る弁当とはちょっと違うなあって思って。」彼女は疑問を持った表情でそう言った。「ああこれね、実はね、彼氏に作ってもらったの。」私は嬉しそうに言うと、お茶を飲んでいる途中だった真里は思いっきりむせた。「はあ!?カレシ!?」「ちょっと真里、驚き過ぎだって。」驚いた表情をしたまま口を拭いている彼女に私は事情を説明した。「ふーん、ロボット彼氏ね。だからあんた午前中やけにニコニコしてたのね。」「まあね。」私はクールに決めようとするが、どうしても笑みがこぼれてしまう。そんな私に真里はこう言った。「今度さ、遊園地デートすれば?」デートか......。考えたこともなかった。今日帰ったら純一に相談しよう。その日の夜、私は次の休みに遊園地へ行かないかと純一を誘ってみた。すると純一は「佳奈さんの行きたい所なら僕はどこでもいいよ。」とあっさり承諾した。「よっしゃ!」思わず心の声が出そうになった。これで明日も仕事を頑張ることができそうだ。胸の高鳴りをなんとか抑えて今日も私は純一に後ろから抱きつかれて眠る。

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