離宮の夜は大混乱!?

1

 ――離宮に行く。


 沙良さらは、そう宣言したシヴァによって、荷造りもそこそこに、城から東の方角にある離宮まで連れてこられた。


 コの字型をした離宮の白い外壁には、濃い緑のつた植物が這い、ところどころ真っ赤な花を咲かせている。


 周りが鬱蒼うっそうとした森に囲まれているからか、誰も住まなくなった古びた洋館のように見えて、すこし不気味だ。


 沙良は思わずシヴァの袖をきゅっと握った。


(なんか……、お化けとか出そう)


 怖い。沙良は早くも城に帰りたくなった。


 だが、シヴァはそんな沙良の気持ちに気づいていないのか、すたすたと門をくぐって玄関の方へ歩いて行ってしまう。


 玄関まではわずかな距離ではあるが、おいて行かれるのが怖くなって、沙良はシヴァの背中を小走りで追いかけた。


 シヴァが門の前まで行くと、ギイィと錆びた音を立てて、門がひとりでに開いていく。


 シヴァとともに沙良が門をくぐると、両開きの黒檀こくたんの玄関の扉が中から開いた。


「いらっしゃいませ」


 突然中から現れた老人の姿に、沙良は「ひ!」と悲鳴を上げてシヴァの背中に隠れた。


 シヴァはあきれたように背後を振り返る。


「沙良、こいつはここの邸の管理をしている、執事のゼノだ」


 沙良はそろそろとシヴァの背後から顔を出した。


 ゼノは灰色の髪を撫でつけて、黒いスーツを着込み、ピンと背筋を伸ばして立っていた。外見は八十近い老人に見える。琥珀色の眼光は鋭く、鷲を彷彿とさせた。


「こ、こんにちは……」


 挨拶もないのは失礼かと思い、怯えながら沙良が言えば、ゼノは琥珀色の双眸を細めて微笑んだ。


「これはこれは、かわいらしいお嬢さんをお連れになりましたね、陛下」


「嫁だ」


「おや、いつの間に結婚なさったんですか。めでたいことです」


 ゼノは沙良の視線に合わせるように中腰になった。


「お嬢さん、ようこそいらっしゃいました。ここに滞在される間、私が面倒を見させていただきますので、よろしくお願いしますね」


「よ、よろしくお願いします。沙良です。はじめまして」


 沙良はゼノが見かけほど怖くないとわかると、シヴァの背後から出て、ぺこりと会釈した。


「しばらく頼む」


 シヴァが言えば、ゼノは深く腰を折った。


「かしこまりました」


 それでは、お部屋にご案内します、というゼノについて、沙良は離宮の玄関をくぐったのだった。

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