15

 温室の入口で中の様子を見ていたシヴァは、嫌な予感を覚えて沙良を抱えたまま温室から出た。


 その直後。


 ガシャアアアアアアン!


 派手な音がして、温室の屋根が落ちた。


 屋根に押され、ガラスの壁までも崩壊する温室から、セリウスと、ミリアムを抱きかかえたアスヴィルが飛び出してくる。


 セリウスは、拳ほどの氷の塊をいくつも自分の周りに浮遊させながら、目が笑っていない微笑みを浮かべていた。


 沙良は、目の前で起こった惨状に、シヴァの服を握りしめながらビクビクしている。


 アスヴィルはミリアムを地上に下ろして背後にかばった。


「ミリアムを渡してくれる?」


「お断りします」


 バチバチと二人の間に見えない火花が散る。


「あのさぁ、俺のいないうちに勝手にミリアムと結婚なんかしてさ、いい度胸だよねぇ? 俺に消されたって仕方ないよねぇ? でも、この場でミリアムと離婚するって宣言してくれたら、許してあげるよ。わかったら、ミリアムを渡して」


「申し訳ありませんが、離婚なんてしませんし、ミリアムは渡しませんし、殿下の言い分はわかりたくもありません」


「ほんっと、君ムカつくよねぇ」


「誉め言葉として受け取ります」


 ふわふわと拳大こぶしだいの氷の塊が、セリウスの周りと回る。


 対するアスヴィルも、応戦する気満々のようだった。アスヴィルの周りには真っ赤な火の玉がいくつも生まれては浮かんだ。


 見たこともない光景に、沙良はシヴァにしがみついた。


 シヴァは沙良をなだめるようにぎゅっと抱きしめて、一触即発状態の二人の様子をうかがっていたが、


「覚悟しろ!」


「そちらこそ!」


 と二人同時に攻撃を仕掛けようとしたところで、パチン、と指を鳴らした。


 ――それは、一瞬のことだった。


 バシャアアアアン


 二人が生み出した氷の塊と火の玉が消されたと思った次の瞬間に、二人の頭上から大量の水が落ちてきた。


 ずぶぬれになった二人――ミリアムも巻き込まれたので三人だが――は、ぼたぼたと水を滴らせながら、茫然とシヴァを見た。


 シヴァは氷のように冷たい目で二人を睨んだ。


「――十年前、二度と城を破壊するなと言っただろう」


 ギクリ、と二人の表情が強張こわばる。


 シヴァは沙良を抱えたまま、くるりと踵を返した。


「いいか、俺が戻るまでに、そこの温室はきれいに片づけて元通りにしておけ」


「え? シヴァ様、どちらに行かれるんですか?」


 アスヴィルが慌てて訊ねると、シヴァは肩越しにちらりと振り返り、宣言した。


「離宮だ。これ以上お前らにはつき合いきれん。俺はしばらく、沙良とともに静かなところで暮らす」

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