2
えんじ色のふかふかの絨毯が敷かれた部屋の隅で、沙良は困った顔で立ち尽くしていた。
ゼノの指示のもと、沙良の目の前で三人のメイドがベッドメイクをしたり花を生けたり、お茶を煎れたりとせわしなく動き回っている。
シヴァは使用人が動き回ることに慣れているらしく、ソファでくつろいでいた。
沙良は、メイドが真っ白いシーツの上に薔薇の花びらを散らしているのを見て顔をひきつらせた。
「あのー……」
沙良は小声でこっそりとゼノに話しかけた。
「もしかして、わたし、シヴァ様と同じ部屋なんでしょうか……?」
すると、ゼノは目じりに深い皺をたたえて深く頷いた。
「もちろんですとも。新婚夫婦にふさわしい部屋にさせていただきますのでもう少々お待ちくださいませ。事前にご連絡をいただいておりましたら、もっとご満足いただける演出をしたのですが……残念です」
「そ、そうですか……」
やはり、同じ部屋らしい。
(うう……、わたしの心臓、持つかなぁ……)
沙良は恨めし気にシヴァのうしろ姿を見やった。緊張してドキドキしているのは沙良ばかりのようで、少しだけ悔しい。
(部屋なんていっぱいありそうなお屋敷なのに。何も同じにしなくても……)
しかも、ベッドが一つしかない。これは、また同じベッドで眠らなくてはならなそうだ。
(恥ずかしいよぅ)
シヴァの腕に抱きしめられて眠ったときのことを思い出して、沙良は目じりを赤く染めてうつむく。
「沙良、いつまでそこにいるつもりだ?」
いつまでも部屋の隅で立っている沙良に、シヴァがあきれたように声をかけた。
どうやら、メイドの一人が沙良の分の紅茶を煎れて、ソファテーブルの上においてくれているらしい。
沙良はシヴァの隣に座ると、ティーカップに口をつけながら、部屋の中を見渡した。
アンティーク調の家具が並ぶ、広い部屋である。白い壁に高い天井、天井からぶら下がっているのは、いくつもの蝋燭が立っているシャンデリアだ。
(豪華なんだけど……、やっぱり、なんか、出そう)
離宮の外観だけでもそうだが、内装の雰囲気も「出そう」だった。お化けとか、幽霊とか呼ばれるものが。
沙良は急に怖くなって、シヴァとの距離を少し詰めた。
「どうかしたか?」
「なんでもないです」
「何か、怯えていないか?」
「き、気のせいです」
小さな子供ではあるまいし、「お化けが出そうで怖いんです」とは言えず、沙良は
(ミリーも一緒ならよかったのに)
あの賑やかな彼女がそばにいれば、きっとお化けも怖くなかった気がする。
シヴァは訝しそうな顔をしたが、手を伸ばして沙良の頭をポンポンと叩いた。
「まあいいが、何かあれば言えよ」
その優しい仕草に、沙良ははにかみながら、こくんと頷く。
二人の様子を見たゼノが、おやおやと笑った。
「仲がおよろしいことで、けっこうでございますね。お部屋の準備が整いましたので私たちは失礼させていただきますが、どうなさいますか? お食事前に、先に入浴されますか?」
「準備できているのか?」
「ええ、いつものものが」
「そうか。沙良、ゼノに案内してもらって、先に行け。俺は少し用事があるから、あとから行く」
どこに、だろうか。
沙良は首をかしげてゼノを見上げた。
ゼノはにっこり微笑んで、沙良のもの言いたげな視線に答えた。
「温泉でございますよ」
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