10

 ――しばらく、シヴァと同じ部屋で生活するように言われた沙良だったが。


「むりです、むりですむりですぅ……!」


 クッションを抱えて、沙良は必死に部屋の中を走り回っていた。


 あきれ顔のシヴァがその後ろを大股で追いかけている。


「そっちの方が無理だ! いいからこっちに来い。前みたいなシースルーの夜着でも何でもないだろう! 今度は一体なにが無理なんだ」


 夜である。


 夕食を食べ終わり、さあ寝ようというころになって、沙良はふとあることに気がついた。


 ベッドが一つしかない。


 少し前に、シヴァの腕に抱き込まれて同じベッドで眠ったことをまざまざと思い出して、沙良は慌てた。


 一緒のベッドで眠るなんて無理だ。心臓が爆発する。


 ソファにあったふかふかのクッションを抱えて、沙良はシヴァに向かって「ソファで寝ます」発言をした。


 その結果、即刻却下されて、シヴァにベッドに引きずりこまれそうになり、こうして逃げ回っているのである。


「むりなんですー! 恥ずかしくて死んじゃいますっ。ソファで! ソファで寝させてくださいぃ!」


 そうしてパタパタと小走りで走りまわる沙良だったが、追いついたシヴァにあっさり抱き上げられてしまう。


 ぴきっと沙良はシヴァの腕の中で硬直した。


 そのまま広いベッドまで運ばれて、ポスンとふかふかのマットに身をうずめることになった。


 あわあわと沙良が逃げ出すよりも早く、シヴァの長い腕が沙良を抱き込む。


「手間取らせるな」


 はあ、とため息をつかれれば、沙良は恥ずかしくて泣きそうになった。


「だって……」


「取って食うわけじゃないだろう。おとなしく寝ろ」


「でも……」


 眠れるはずがない。この前だって緊張して明け方近くまで眠れなかったのだ。


 しかし、沙良の訴えはシヴァに聞き入れられない。


 シヴァは仕方がないなと、沙良を腕に抱き込んだ姿勢のまま、ポンポンと彼女の背中を叩きはじめた。まるで、子供を寝かしつけるようだ。


「ほら、寝るまでこうしてやるから、おとなしく寝ろ」


(そういうことを望んでるんじゃないんですー!)


 沙良は心の中で文句を言ったが、何を言っても解放されないのだろうと理解して、仕方なくシヴァの腕の中でおとなしくすることにした。


 トクトクと規則正しい心臓の音がする。


 沙良よりやや高いシヴァの体温が伝わってくる。


 沙良は緊張してカチコチになっていたが、ポンポンと規則正しいリズムで背中を叩かれていると、だんだん瞼が重くなってきた。


 シヴァの熱と心臓の音が、心地よくなってくる。


 沙良が眠りの世界に引き込まれる寸前、


「おやすみ、沙良」


 シヴァのささやきが、沙良の耳に落ちた。

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