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 沙良さらは困惑していた。


 沙良は今、シヴァの腕に抱きかかえられて城の廊下を移動中だ。


 いつもは空間移動で移動するシヴァが、なぜか今はイライラした様子で廊下をずんずん進んでいる。


 先ほどまで沙良の部屋でセリウスに抱きかかえられていたのだが、額に青筋を浮かべたシヴァに沙良はひったくるようにしてセリウスから奪われ、こうして横抱きに抱きかかえられ廊下を進んでいる。


(なんか、すっごく機嫌悪そう……)


 不機嫌オーラをまき散らしながら歩いている。


 シヴァの姿を見た人もそんな風に思うのか、みな慌てて廊下の端に逃げる始末だ。


 やがてシヴァの私室に到着すると、沙良はソファにおろされて、なぜかシヴァに頭を撫でられた。


「変なことはされていないな?」


 眉間に深い皺を刻んだまま、シヴァが訊ねる。


 頬ずりされたなんて言ったら怒り出しそうな雰囲気なので、こくん、と沙良はうなずいた。


 シヴァはホッと息を吐きだすと、疲れたように沙良の隣に腰を下ろした。


「沙良、しばらくお前はこの部屋で生活しろ」


「え?」


 沙良は目を丸くした。魔王様の私室で生活しろ、ということだ。


「あのままあの部屋にいたら、あの馬鹿が入りびたるのは目に見えている」


 あの馬鹿、とはおそらくセリウスのことだろう。


 沙良は少し気になったので訊いてみた。


「あのぅ、シヴァ様とセリウス様って、仲良くないんですか?」


「別に不仲ということはないが……」


 シヴァとセリウスは、性格が真逆というほど違う。おかげで昔から苛々させられることが多かったのは事実だ。


「反りが合わないだけだ」


「そうなんですか……」


 確かに、シヴァとセリウスは、兄弟というのが不思議なほど雰囲気が違った。


(でも、悪い人じゃ、なさそうでした)


 譲ってくれとモノのように言われたことは、きれいさっぱり沙良の脳内から消えている。なぜなら、沙良に興味を示すもの好きなど、そうそういないと思っているからだ。


 沙良はシヴァを見上げた。


 相変わらず苛々しているようだ。


 沙良は、どうしてシヴァが苛々しているのか理由がわからず、首をかしげたのだった。

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