第11話、父と似ているから気づけたなんて、ある意味で衝撃事実



SIDE:共通



「カリス・カムラルです。よろしくお願いしますっ」



カズじゃなきゃ誰だよって問いかけたタカに答えたのは。

ふかぶかお辞儀をする本当にカズによく似た少女本人だった。



「カリス? ……ふ~ん。それじゃやっぱりカズの親戚なのか?」


たとえ姉や妹だとしてもこれほどまでに似るものだろうかと思わずにはいられないタカであったが。


カリスと言えばカムラル家で名を残す偉人の一人だ。

偉い人の名前、たとえば世界を創ったという根源の名前をつけているものは人に限らず魔精霊ににも多い。

そんなことも思い、そう改めて聞いてみたタカであったが。


「あ、はいっ。私はカムラル家の魔精霊みたいです」


何というか、本人が他人事だった。

ヨースのことを知っているのか、さっきからされるがままのヨースをもふもふするのに夢中になっている。


カズに似てるのだから幼い顔立ちであるのは間違いないのだが。

それでも尚、彼女は見た目より幼く見えてしまう。



「えっとね、カムラル老様の言づてがあったんだけど……」


仕方がないなぁ、とばかりに。

一つため息をついたセリアが、昨日あったことを説明してくれる。




セリアが交換留学でお世話になっていた、カムラル邸にて。

カズの育ての親であり祖父でもあり、ユーライジアスクールの政を担うと言われるカムラル老に声をかけられ、いつもの夜のお茶会に呼ばれたセリア。


しかしそこにいたのは、カムラル老ではなく。

カリスと名乗った彼女で。


歓迎夜会から戻ってきたカズとともによくよく話を聞いてみれば。

『世界の中枢』などと呼ばれる場所に、何か問題が発生したと言う事で、カムラル老の姿はなく、その代わりに彼女が遣わされた、とのことらしい。


更に彼女が口にした通り、彼女はカムラル家を守る『火(カムラル)』の魔精霊、だそうで。



「……で? カズはどうしたんだ?」

「急ぎの用事があるからって。スクールはどうするのって言ったら、これだけ似ていればどうせ誰も気づきやしないだろうからカリスちゃんに行かせてみたらって」


トールのもっともな問いに、なんだか戸惑っている風のセリア。

きっと、カズの事が心配なのだろう。



『オレは男だ!』

と言い張って譲らない彼女は。

自らの立場など頓着せずに、厄介事某に顔を突っ込むのが常だからだ。


おそらく、その『世界の中枢』なる場所で起こった問題に顔を突っ込んでいるに違いない。

タカとしては、大抵の事には立ち回れるカズのことをよく分かっていたし、セリアほど心配する必要のない、根拠があったりするわけなのだが。



「かと思ったら一瞬でばれちまったってことか」


ちょっと呆れたようにトール。


「ま、仕方ないわね。カズを知ってる人なら誰だって違うって思うでしょうし」


前述した通り、カズはヨースが苦手だ。

それは、カズのいろんな意味で弱点である、『光(セザール)』の魔力をそのまっさらで触り心地のいい毛を覆っているせいだ。


しかし、ヨースが嫌いなわけじゃない。

例をあげるとすれば、動物に触れるとくしゃみやらが止まらなくなるのに、涙流してかわいがりたがる人に似ている。


それがどうだろう。

もう自分のものみたいな扱いのカリスに、自分から寄っていったヨースの方が辟易しているように見えてしまう。



「ヨース」


そんなヨースを助けるため、ではないだろうが。

低く名を呼ぶトール。



「ああっ」


すると、名残惜しそうなカリスを脇目に、駆け足でヨースは定位置へと戻ってきたから。

恨みがましげにじっとトールを見据えるカリス。



「……な、なななんだよ」


女性が怖いトールが思わず身構えると、カリスは優しげに微笑んだ。

カズとは違う、聖母のような懷愁こもった微笑みだった。


「あなた、ガイゼルさんでしょう?」

「む。確かにそうだが……。何故それを?」

「だってその子が一番なついているもの」

「みゃんみゃん!」


にこにこと嬉しそうなカリスに、ヨースはそんなわけねーとばかりに鳴いてぺしぺしと尻尾でトールのとんがり頭を叩いた。


それが何故ガイゼル家に繋がるのかははなはだ疑問であったが。

彼女がそう納得して間違っていないのならば問題はないんだろう。

それより何より、タカ自身名乗っていない事に気づいて。


「えっと。そんじゃまずは自己紹介だよな。トール達のことは知ってるみたいだけど俺は……」

「タカ・セザール君!」


そう、タカが名乗る前に。

得意げに名を呼ぶカリス。


「あれ? 俺のことも知ってた?」


魔精霊界にも自分の名は知れ渡っているのかと同じく得意げになるタカであったが。


「だって、ルレインにそっくりだもの」

「……」


一気にずーんとどん底につき落とされるがごとくへこむタカ。

父に似て恥ずかしいというより、似ているなんて意識したこともなかったので、衝撃だったのだ。


「何で落ち込むのよ。誇っていい事じゃない」

「うるせいやい」


からかう風ではなく、父さん大好きなセリアが半ば本気でそう言うものだから余計にいたたまれない。

そんな二人のやりとりを見て、カリスは言葉が足らぬないと思ったのか。



「あ、あと、セリアちゃんの話題に毎日のように出てたから。タカの事は知ってたの」

「わーわーわーっ! 何を言うんですかっ!」


カリスのある意味爆弾のような言葉に、セリアは見るもあからさまな態度を見せてカリスの口を塞いだ。



「はははっ」

「な、なんだよ……」


楽しげに笑うトール。

こういう場合どんな顔をすればいいか分からずに。

タカは眉を寄せて憮然とするしかなくて……。



            (第13話につづく)






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