サキュバス・シスタープリンセス

・時刻:ポショポチョ氏の二回目の死亡から二日前(訂正)

・場所:サルでも入学できる魔術高等学園・蘇生の教会


 諄いようだが、転移者は不死である。ユニークスキルによって、死んだとしても女神像の御御足元から肉体ごと蘇生されるのだ。

 つまり、死んだ場所と蘇生する場所は全く違うところになる。ドラクエを思い浮かべて貰えば大体はあっているだろう。

 では、死んだ後に残る転移者の死体はどうなるのか? 

 基本的に光の粒となって空中に消え去る。火垂るの墓の最後のシーンみたいな光景なので、見る機会があるならば、ぜひ一度見て欲しい。美しい光景だ。


 さて、話を戻すが。

 イカれたクソ眼鏡女に殺される前に安楽死剤を飲み込んで死んだ俺は学園の女神像から蘇生を果たした。


 俺はヨイショと棺桶の蓋を内側から開け棄て、起き上がる。

 売れば高そうなステンドグラスや木材製の座椅子。設置された懺悔室を見れば、簡単に此処が教会だと分かった。まぁ、女神像が設置されている場所は大体が教会なんだけどね。

 ふと、後ろに聳え立つ女神像を見上げる。

 女神【アバズレ】さんだ。俺達を【地球】から【異世界】に転移させた張本人だと想われている女神。実際のところは誰も女神【アバズレ】には逢ったことがないので真実は分からないのだが。ちなみに【アバズレ】って名前も俺ことポショポチョが勝手に名付けて、世界に周知させた名前なので、本名も実のところは知らない。


 だが転移者が不死なのは間違いなく、この女神が関係している筈だ。蘇生する場所が絶対に女神像の足元となれば誰にだって分かる。

 俺はとりあえず、蘇生してくれてありがとうと【アバズレ】に祈りを捧げた。



「ポショポチョ」



 純粋無垢な祈りを捧げていた俺を呼ぶ声が背中から聞こえる。

 その瞬間、身体は勝手に歓喜した。いや、喜び悶えたと言って良いかもしれない。【アバズレ】女神のような胡散臭い女神ではなく、現代に蘇りしジャンヌ。透き通る美しい声に俺は素早く振り返った。


 ぁァ……っ……


 俺は涙を流す。

 其所に立っていたのは殉教者の白きローブに身を包んだ清楚を体現したようなサキュバス。比喩でも何でもない。悪魔の翼に、悪魔の尻尾。ついでに悪魔の角。エロさを通り越して無の境地へと到達している、一人のサキュバスが其所に立っていた。


「う、嘘だっ……これは幻覚だっ……」


 俺はあまりの嬉しさに否定した。


 俺は【地球】から【アルマ】に転移した時、右も左も分からないガキだった。周りにはイカれたクソ野郎共しかいなくて、俺はボッチだった。学校で一人とかじゃない。異世界でボッチだったのだ。金の使い方も稼ぎ方も分からず。俺はイカれたクソ野郎共を騙して詐欺や強盗をして、酒を飲んで、キャバクラ行って、酒を飲んで、ギャンブルして、酒を飲んで、その日その日を生きる辛い毎日で。精神的に疲弊して毎日のように嘔吐していた。


「ポショポチョ……不思議ですね、二年前の貴方はこんな言いにくい名前ではなかったのに」

「嘘だっ……貴女はっ……だってっ……」


 あの頃、異世界の裏社会のボスにまで上り詰めた俺は札束の風呂に入り、騙しに騙しまくったイカれクソ野郎共の報復に怯えながらも空虚な心を必死に埋めようとしていて。

 そんな時、俺は女神に、貴女に出会って……


「ポショポチョ、もう一度、私と友達になってくれますか?」


 俺にそう言ってくれたんだ。


「っ……―――し、シスタぁぁあぁあぁぁあぁあぁぁッッ!!」


 俺は耐えきれず、協会の入り口に佇むシスターへと駈け寄り。


「ハァアッ!! 【封印スキル発動:常時スキル・ヒモマスターを封印!!】」


 シスターが凄まじいステップから繰り出したボディーブローをモロに喰らった。


「ぐえっ……っ!」


 な、何が? 俺の頭は真っ白になった。

 理解が追い付かない。防御力ナメクジの俺は、膝がガクガクと笑い、締まらない口から涎が吹き出る。ぼ、ボディーだ。俺は確かにボディーを喰らった。

 は、腹は? あ、ある……な、なんて拳をしてやがるんだ……


「ポショポチョ――あ――わた―――たね―― 」


 シスターが何か言っている。と同時に、シスターは左拳を大きく引いた。ま、マズい。もう一発来やがるっ………足を止めたら終わりだっ……

 だが、俺の足は最初の一発で動くことすらままならないダメージを負っていた。言うことを聞いちゃくれねぇ。

 シスターの腰がうねり、その目は俺の顔面を捕らえている。あんな拳を顔面に喰らえばっ。俺はゾッとして、顔面をアームクロスガードで庇う。

 それを見越していたかのように、シスターは更に身体を屈め、俺を嘲い、ガードを潜ってポディーブローを溝にぶち込んできた。ご丁寧に先程と同じ箇所に、だ。


「【封印スキル発動:常時スキル・極悪人を封印!!】」

「ぁぁぁ~~~ッッ……!?」


 俺は悶絶した。

 あんなに頑張って防御力を鍛えたのに、このざまなのか。

 絶対に貰ってはいけない拳だった筈だ。何故、よけれなかったんだ。

 自分の不甲斐なさに嘆き、蹌踉めきながらもファイティングポーズをとる。



 待て。

 待てよ……

 このスキル発動メッセージは一体なんだ? ふ、封印……だと? ハッと気付き、ポディーブローの痛みに悶えながら、俺はステータス画面を脳裏で開き、スキル欄を見つめる。


 【常時スキル:ヒモマスター】

   ※※※シスターによって封印された※※※

 【常時スキル:極悪人】

   ※※※シスターによって封印された※※※


 な、なにぃ……っ?

 

「ポショポチョ、後三つです」


 シスターがはじめの一歩ごっこしてるのかと想ったら違った。どういう訳か、彼女は俺が持つなけなしのスキルを封印してきている。


「あ、後三つ……?」


 後三つって、【詐欺師】と【魔薬スキル】と【不死者】なんですけど、この三つ封印されたら、どうなるんですかね? よしんば【魔薬スキル】と【詐欺師】は良い。シスターが封印したいって言うなら俺は甘んじて封印される。

 俺は近付くシスターに言う。

 【不死者】はなんとかなりません? 俺、学園に来て二分で一度殺されてるんですよ。一日は二十四時間だとして、二分で一回死亡のペースだとするじゃないですか? 俺、一日で三桁は余裕で殺されるんですよ。不死者がない場合、二分後には学園に殺害現場が出来ますからね? もしそうなったら、犯人はミュカバっていうイカれた眼鏡女ですので。


「私は未だに、転移者だから殺して良い等という考えは反吐が出るほどに嫌いです……しかし、そうしなければならないことも、また事実…ポショポチョ、この学園はマトモな青少年の生活を送るなら危険はありません。そもそも、殺される生徒と言うのは、生徒側にも大きな問題があるのです」

「………」


 

 確かに。俺はそう想った。

 いや、でもなぁ……不死者無くなるのは、学園生活を送る上でコワイし……此処で命が一つしか無いってどうなんだろう……ドラクエが一回死んだらセーブデータ消去みたいなクソゲーになるみたいな……


「ポショポチョ。本来、人間は命を一つしか持ってません。だからこそ、生は尊く、そして何よりも重い存在となる。不死者である転移者がおかしいのです」


 確かに。俺はそう想った。

 アレ? じゃあ、不死者はいらないスキルって事になりますかね?


「ポショポチョ。私は貴方という人間を信じています。貴方は、心優しく、慈悲の想いがあり、素敵な男の子だと……そんな貴方なら、きっと真面目に学生生活を送れると……私は信じているのです」

「し、シスターっ……そんなに俺のことをっ……!」


 初めてだった。俺のことを極悪犯罪者やDCのジョーカー扱いをしない、心麗しき方は。やはり、シスターはシスターなのだ。淫魔のサキュバスだからとか、種族は関係ないんだ。この人は清楚で美しき博愛の心を持ったシスターなのだ。

 聖なるシスターに心洗われた俺は、腹を見せて寝転がる。ゴッコルさんに対して散々と行ってきた動きに迷いはなかった。


「分かりました、シスターっ。では、俺の不死者を封印してくださいっ」

「………ポショポチョ。ちなみに、なんですが。えぇ、ちなみにです」

「はいっ!」

「死亡の頻度はどのくらいなのでしょうか」


 シスターの質問に俺は頭を捻る。

 そう、ですねぇ……前ね、普通に王都で暮らしてた時は週ぅ……二、三、かなぁ。牢獄に居た頃、ゴッコルさんに反攻していた時期は一日四回は死んでましたね。でも、ゴッコルさんの犬になってからは環境が劇的に変わりまして、死ななくなったんですよ。何回死亡してたと想います? ビックリしないでください。一回なんですよ。一日一回、一死みたいなね。もう気分はラジオ体操だーつってね。一日のノルマみたいな? 


「不死者スキルの封印は辞めましょう」

「え?」

「……ポショポチョ、お分かりなさい」


 で、でた! シスターの「お分かりなさい」だっ!

 これは、貴方になら何も言わなくても分かる。または、分かるように努力しなさいと言うことだっ! 周りの奴等は、シスターが困ったときに使う苦し紛れの台詞とか言っていたが、このシスターがそんな台詞を言う訳ない。この方は、俺を信じてくださっているのだ。

 シスターはきっと不死者スキルの封印なんかしなくても、俺が全うに青少年として生きていけると信じているんだ。


 俺は感動した。


「ポショポチョ、私はもう貴方を見放したりしません」

「し、シスター……っ!」

「目を離しません。えぇ。二年前、貴方なら一人で立派に生きていけると想い、私は貴方を王都において姿を消しました……貴方に何も言わず。その事については、本当に申し訳ないと想っています」

「い、良いんです、シスターっ! 貴女は、正直どうでも良い他の転移者のため、【地球】への帰り方を探すという大きな目標の旅に出たんですからっ!」

「ポショポチョ、どうでも良いとか言わない。どうでも良いとか言わないように。心に刻みなさい。他の転移者達は、同じ【地球】の仲間だと」

「そ、そうでしたっ……!」

「……貴方の噂は、私が旅に出てから幾度となく聞きました。えぇ、それはもう、色々と」


 きっと、俺が王都の亜人さんのために四苦八苦と働きまくった噂だろう。ゴッコルさんも俺のお陰で犯罪に対する法案が大分見直されたと言って感謝していたし。

 シスターは俺の両手をガッシリと自分の両手で包み込んだ。


「貴方の噂を聞いたとき、私は想いました。貴方を全うな青少年にしてみせると。王国を渡り歩き、スキル封印術を学び、精神教育の知識を深めたのです」

「シスター……そんなに俺のことを想ってっ……お、俺は幸せな男だッ……貴方のような母親がいてくれてッ……」

「良いのです、ポショポチョ。私は貴方や、ワフゥ。そして、マチャルやフクヤマ、フジサンにコイノボリを息子娘だと想っているのですから……」

「あ、あんなクソ野郎共を、俺を除いた“最悪の転移者達”までッ……なんて懐が広いんだ、シスター……ッ」

「ポショポチョ、クソ野郎共とか言わない。言わないの。あの子達は貴方の仲間です」


 えぇ……それは正直に嫌だなぁ……

 だって、ホモとかロリコンとかマリーアントワネットみたいな奴等ですよ? だれが関わりたいと想うのか。まぁ、でも、金の亡者な悪女と呼ばれてた“ワフゥ”は、その中でもマシな女だった。基本的に直ぐ裏切るし、金でホイホイと立ち位置を変えるヤツだったけど、金さえ出しとけば便利な女だったから。


「ポショポチョ、聞いているかも知れませんが、貴方を学園呼んだのは私なのです」

「はいっ、知ってましたっ!」

「そうでしょう。貴方は私の言うことを素直に聞いてくれる良い子でしたからね」

「当たり前です、シスターっ! シスターのためなら、俺は何人だって殺しますよっ!」

「ポショポチョ、殺さない」

「殺さ……ない?」

「私が貴方に誰かを殺せなど頼みません」

「し、シスター……?」


 シスターは酷く困ったように瞳を閉じ、悪魔の翼を折りたたむ。ついでに悪魔の尻尾もふにゃりと地面に落ちた。俺には分かる。これは、シスターがどうすれば分かってくれるのだろうと誰かのために頭を悩ませている時の癖だ。


「……ポショポチョ」

「はい!!」

「入学式、出ましょう」

「うんっ!」


 俺はとりあえず元気よく頷いた。

 


◆◆◆◆


・時刻:ポショポチョ氏の三回目の死亡から二日前(訂正)

・場所:サルでも入学できる魔術高等学園・体育館


 シスターは基本的に蘇生の教会にいるらしい。あまり外には出歩くことはしないから、授業以外で逢いたいときがあるなら教会に来なさいと言っていた。俺が一日一回、教会に通うことが決定した瞬間である。

 二年もシスターに会えなかった反動か、俺はシスターとの再開によって最高潮なご機嫌になっていた。その辺で拾った太い木の棒をペシンペシンと地面に叩きながら、鼻歌交じりに体育館へ一人で向かう。

 どうせならシスターと入学式に出たかったが、シスターはやることがあるらしい。凄く心配そうに俺を見ながら、一人で入学式に出てくれと言ってきた。あの人にしてみれば、俺は何時でも息子のような存在なのだろう。


「あの人、入学の時に運ばれてた犯罪者の……」

「意外と背がデカくない? 百九十くらいあるよ」


 ヒソヒソと周りから噂されることも、今の俺には全く気にならない。


「顔は普通だね。イケメンじゃない」

「体格は良いよね」

「アレ、ネットの掲示板に上がってたポショポチョじゃね?」

「ポショポチョって、アレ? 王都の王族にぶち殺された?」

「何でも、王都の金庫に押し入って、財宝盗んだ後に燃やしたらしいよ」

「金燃やすとか完全にジョーカーじゃん」


 全く気にならないのだ。

 ふんふーんと鼻歌交じりに俺は雑草の奴等を横切り、体育館を目指す。シスターからくれぐれも大人しくしておくようにと言われている俺は、ハッと気付く。


 制服を着ていない。

 入学式に制服を着ていない奴はそうじてヤンキー。

 脳裏に焼き付いた答えに、俺は戸惑う。


 どうしよう。魔術学園っていう、人からすればワクワク待った無しの入学式に、ヤンキー目立ちはしたくない。何を隠そう、俺はヤンキーって人種が死ぬほど嫌いだ。ポショポチョはハッキリ区別する人間。裏表はしっかりとしている。

 犯罪者に見られるのは良いが、ヤンキーに見られるのは嫌だ。

 となれば、制服を学園から受け取るのが先か。いや、そもそも、俺の制服とか用意されてるのかな。


 そもそも、入学が牢獄からの一直線コースだったからなぁ……制服が用意されていない可能性の方が高い。


 しかも、今から制服を受け取りにいったら入学式に間に合わないだろう。


 うーん……どうすっかな……

 と、頭を捻りながら、視線を辺りに見回す。同じように制服を着ていない奴等がいれば、制服着なくても平気かも知れない可能性があるのだけど。


 辺りを見回していた時、ふと、体育館の裏側で数人の塊を見付ける。裏側といっても辺りから丸見えであり、俺と同じように数人の塊を見ている奴等も居た。

 俺を見てヒソヒソと話す奴と、数人の塊に何してるんだと注目する奴で周りは真っ二つに分かれる。


 よくよく数人の塊を見てみると、一人を囲うように四人組が集まっているのが分かった。


「よう、シンスケ? 久々じゃん? なに、俺等を無視してんだよ?」

「……いや、無視してないよ」

「あ? つか、何言ってるか分からねぇんだけど!」

「ほんと、お前って暗い奴だよなぁっ!」


 ギャハハと今時にしては馬鹿すぎる笑い方をして、四人組は一人をからかっている。


 俺はワクワクした。

 これは、イジメだ。異世界において、こんな在り来たりでテンプレなイジメが起きるの? しかも、此処は異世界。地球に居た奴等とはスッパリ縁が切れる筈なのに、彼奴等は前から知り合いっぽい感じだ。

 つまり、いじめっ子といじめられっ子が合わさって異世界転移してきたのだろう。想わず噴き出すレベルの不幸っぷりだ。


 こういう魔術学園の入学式ってのは、正義の味方らしき主人公がいじめっ子をボコボコにしてからストーリーってのが始まるのがお決まりだろう。まさか、現実でその現場が見られるとは。

 俺はワクワクが抑えきれず、横の花壇に身を隠していじめっ子といじめられっ子を見つめ、正義の味方が訪れるのを待った。


「つかさ、お前も入学出来たんだ? なに、金とか使ったの?」

「ギャハハっ! シンスケの親は金持ちだから、そういうことだろっ!」

「良いよなぁ、異世界で金持ちの里親に保護されるとか……俺等にも金くれね?」

「ッ……」

「あ? なに睨んでんの?」


 いじめられっ子が親を馬鹿にされた時にいじめっ子を睨み付ける。

 もうすぐ、いじめられっ子は殴られるだろう。俺がいじめられっ子の立場なら、今すぐ地面に落ちている石を拾っていじめっ子の頭にフルスイングする。転移者は不死だ。躊躇する理由はない。

 

 で、正義の味方となる主人公くんはまだ乱入しないの?

 俺は辺りをクルクルと見回すが、俺と同じように傍観しているか、いじめっ子といじめられっ子のどちらが先に死ぬかを賭けている一人の女しかいない。


「んな目で睨んでんじゃねぇーよっ!!」

「ぐぁっ!?」


 遂にいじめられっ子が殴られた。


 ………え、正義の味方は来ないの?

 この傍観している奴等の中に主人公となれる異世界転移者はいないらしい。

 なんだよ、つまんねぇな。これじゃあ、イジメの現場をただ傍観していたクズじゃねぇか。ポショポチョは普段は温厚で暴力を知らない優しい男なのに。

 仕方ねぇ。此処はいっちょ、俺が主人公になってみますか。


 俺は太い木の棒を軽く振るい、片方の手をポッケに突っ込んでイジメ集団に歩み寄る。気分はハイスクールビバップ。肩で風を切り、大股で歩きながら眉間にしわを寄せる。

 普段は絶対にしない動きで、俺はいじめられっ子の背中まで近付く。

 

「マジさ、シンスケって生意気じゃね? おい?」


 いじめっ子がいじめられっ子の肩をドンと押し、いじめられっ子が俺の肩にぶつかる。


「ってぇなぁ、何処見て歩いてんじゃワッッッレェェッ!!」


 誤解しないで欲しいが、ポショポチョくんは普段は大人しい犬だ。

 この演技は、いじめられっ子に対する優しさだ。

 いじめられっ子は虐められる自分を不甲斐なく思っているだろう。男なら尚更にそうだ。其所に、爽快と現れた強い奴がいじめっ子をボコボコにすると、いじめっ子は助けられたことに対して、さらに自分を不甲斐なく想うだろう。

 だから、こうしてもう一人のヤンキーが現れ、勝手にキレて勝手にいじめっ子をボコボコした筋書きを作るのだ。


「な、なんだ、お前?」

「あァッッッ!? 誰に口聞いとんじゃワッッッレェェッ!? おんどりゃ、ワシと殺ろうってんかドサンピンがァッッッ!!」

「い、いや、だから…」

「なんじゃワッッッレェェっ! 邪魔じゃ、ボケナスがァッッッ!!」

「痛ァッ!? え、えぇッ!?」


 俺はいじめられっ子を後方に逃がすように全力でぶん殴り、吹き飛ばす。

 ええんやで、此処は俺に任せてお前は逃げるんだ。


「な、なんなんだよ、お前はっ!?」

「グチグチ言わんと、かかってこんかいワッッッレェェッ!! ワシゃ、天下のポショポチョやぞォおッ!? ワッッッレェェッ!!」

「痛っぇえぅえぇッ!?」


 ゴリ押し感が半端ではないが、きっとイケる。

 俺は戸惑いに戸惑ういじめっ子のローに太い木の棒を全力でフルスイングした。木の棒は折れたが、折れた箇所が丁度鋭利に尖ったので、そのまま切っ先を全力でいじめっ子に振り下ろす。


「死にさらせえぇぇえええぇワッッッレェェッ!!」

「あっぶねぇえぇぇえええぇえぇッ!?」


 間一髪のところでいじめっ子は避ける。

 チッ、避けなければ、殺せたのに。


「かかってこんかいクソ共がァッッッ!!」

「ひ、ヒィィっ!? な、なんなんだ、此奴はっ!?」


 ブンブンと折れて鋭利な刃物となった木の棒を振り回す。

 ステータス的に見れば、貴様等の方が倍は高いだろうが、俺は潜ってきた場数が違うのだ。

 幾ら高いレベルであろうが、高いステータスだろうが、人は刃物で刺せば死ぬ。

 明言だと想う。


「ぶッッッち殺したらァアァアァアァッッッ!!」

「肩ぶつかっただけで其所までキレますッ!?」


 確かに。此処までキレる訳ないと想う。俺は素直に認めた。

 

「って……あれは……」


 あ? 何処見てんだよ。俺は此処だ。俺を見ろよ。

 今時、体育館の裏側でイジメを行うとか古臭くて何の生産性もないクソみたいな行動をするお前が見るのは俺だ。


「ポショポチョさぁーん。私は言いましたよね? 貴方を善人にするなら、何度だって貴方を殺すと」


 俺は木の棒を投げ捨てて、自信のある土下座スタイルをかました。

 

「違うんですよ、ミュカバ氏」

「【ソードスキル:ソードバスターネオ】」


 俺はイカれたクソ眼鏡女のソードスキルによって細切れになって死んだ。




 

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