第七話 亜人の怒り

「は?」


勇樹は見覚えのない所で目が覚める。


そこは、鉄の天井に木の少し古いベット、出入口は鉄の柵で塞がれている牢獄だった。


牢獄の前には猫のような耳を生やした人物、いわゆる亜人が警備している。


「やっと起きたか」


亜人が勇樹に話しかける。


「あの…ここってどこですか?」


勇樹は亜人に質問する。


「ここは洞窟の奥にある亜人の集まりだ。お前は罪を犯したからそこに閉じ込められているんだ」


牢獄の外には部屋のようなものもあり、まるで秘密基地のようになっている。


勇樹は疑問が頭に二つ浮かぶ。


一つはなぜ自分が罪を犯したことになっているのか。


勇樹はこれまでモンスターに襲われていた人達を助けてきた。


罪を犯す事とは反対の事をしてきたのだ。


それなのに、なぜ自分は罪を犯したことになっているのか分からない。


もう一つはなぜこの亜人はモンスターが喋っても驚かないのか。


今まで勇樹が見てきた人たちは、自分が喋ると驚いていた。


この世界ではモンスターが喋ることは珍しいはずなのに、なぜかこの亜人は驚かない。


「本当はあの場でお前を殺してもよかったんだぞ。しかし、ガイコス様がお前を生かしてくれたんだ。まったく、なぜあの人は罪人を生かすんだ…」


次から次へと訳の分からないことを亜人は勇樹に言う。


勇樹は何の事だかまったくわからない。


「あの…。 僕なんの罪を犯したんですか?」


勇樹は亜人に聞く。


すると、亜人は勇樹を睨めつけながら言う。


「お前、湖の魚を食べただろ。 それがお前の罪だ」


勇樹ははっと思い出す。


確かに昨日、お腹を満たすため魚を食べた。


しかし、それの何がいけないのか分からなかった。


「あの…。 それの何が悪いんでしょ…」


「黙れ! いいか! ここの集落の亜人はな、皆食べ物に困ってるんだ!   飢え死にした者だっているんだ!  そんな中、おととい俺達はあの湖で魚を見つけて、ようやく食べ物が得られると思って、昨日の夜魚を捕りに行ったらお前が全部食べ切っていたんだ!  あの湖にいた魚は俺たちの食べ物だったんだぞ!  皆楽しみにしていたんだ!  それを、お前が食べ尽くしたんだぞ!」


「でも、町に行けば食べ物なんていくらでも…」


「ふざけるな! お前は俺たちを煽っているのか! 亜人はこの世で嫌われている存在なんだぞ!」


亜人は勇樹に強い口調で怒鳴る。


ここで一つの疑問が解決した。


なぜ自分は罪を犯した事になっているのか。


それは、自分が亜人たちの『命』を食べたからだ。


そう言われた瞬間、勇樹の心は罪悪感で支配される。


自分が亜人を殺す。


自分が何の罪もない人たちを殺す。


亜人たちにとって、食べ物は命なんだ。


そう勇樹は感じた。


勇樹は鉄の柵越しに見える他の亜人たちを見る。


警備の亜人が言った通り、確かに飢えている。


体の筋肉はほとんどなく、中には内臓が浮き出ている者だっている。


警備の亜人もよく見ればものすごく飢えている。


「た、大変だ! 王国の兵士たちが来たぞ!」


一人の亜人が集落にいる全員に大きな声で伝える。


「おい、ミルはどこに!?」


「奥の隠し部屋に隠れさせたぞ!」


亜人たちがそんなような話をする。


急に周りの亜人たちが隠れ始める。


すると、王国の兵士たちが亜人がさっきまでいた場所にズカズカと入ってくる。


勇樹は、兵士たちを引き連れている男に見覚えがあった。


その男は、勇樹を殺そうとした張本人『ミスタリー』だった。

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