第五話 自分とかけ離れた自分

「まったく、なんなんだよ…」


勇樹は洞窟でポツリとつぶやく。


勇樹はつい先程、超加速で近くの洞窟に逃げていた。


「しかし、どうしよっかな~? 世界を救えって言われても、最弱キャラの『ゴブ

 リン』じゃなぁ…」


勇樹はザラザラとした顎に手を当てながら考える。


「パキーン!!」


激しい金属音が洞窟に響き渡る。


その音は勇樹がいる所からだと、右から聞こえてくる。


「ん!? なんの音だ?」


勇樹は走って音がする方向に行く。


しばらく走っていると、巨大な獣のような影と4つの人影が見えてくる。


その巨大な影と人影の正体は、オオカミの格好をしたモンスターと、


20代後半の剣士とその仲間たちだった。


「くっ! こいつ硬いすぎる!」


剣士が右手に持っている剣を構えながら叫ぶ。


しかし、その剣は折れている。


どうやら、先程の金属音は剣が折れた音だったらしい。


「任せて! ソッフン!」


剣士の仲間の女性が右手に持っている杖を上に挙げ、杖から光を放ち、


モンスターの能力を変化させる、いわゆる『魔法』をモンスターに撃つ。


「よし! これで防御力が下がったわ!」


女性が剣士に言う。


「ありがとうスミカ! よーし! 反撃開始だ!」


女性の名は『スミカ』と言うらしい。


「おうよ!」


「あぁ!」


剣士に続いて、体格が良く、戦士の格好をした男と、


すばしっこそうで、盗賊の格好をした男が相槌あいづちを打つ。


「うぉぉぉーー!!」


戦士の男は雄叫びを上げながら両手に持っている大剣でモンスターに斬りかかる。


「グリャァァーー!!」


モンスターが叫ぶ。


「あらよっと!」


盗賊の男は高くジャンプし、腰につけている短刀で背中に斬りかかる。


「グリャァァー!」


モンスターの声が洞窟に響き渡る。


「これでトドメだ!!!」


そう言うと、剣士は左手に持っているもう一本剣から青い光を放つ。


剣士はジャンプし、「スターブレイク!」という技名を言うと、モンスターの頭を

斬り落とす。


その瞬間、モンスターの生命活動は止まり、モンスターの体がどんどん消えてい

く。


「やったな! 皆! 皆のおかげで倒せたよ!」


剣士が剣を鞘さやにしまいながらガッツポーズをとる。


「いいや、お前がいたから倒せたんだよ!」


戦士の男が剣士に言う。


「ああ! 本当にお前のおかげだよ!」


盗賊の男が言う。


すると。


スミカがとんでもない事を言う。


それは、冒険者たちにとっては普通のことなのかもしれないが、


勇樹にとっては驚くべき事だった。


「本当に『ユウキ』って強いわね! さすが勇者!」


その剣士は自分がこの世界に来る前にプレイしていたゲームの主人公とほとんど


一緒だったのだ。


つまり、勇樹が今いる世界は、勇樹がプレイしていたゲームの『セーブデータ』な

のだ。

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