第32話
俺は、金色の光につつまれながら、昇り龍もかくやという勢いで、天を駆け上がっていた。
まわりの景色が、滝のように流れていく。
「 は …… ぁ …… い …… レ …… ス …… ト …… ラ …… ン …… 」
野太い言霊が、土から這い出た土龍のように、俺に追従する。
彼らとともに、樹冠のような雲をいくつも突き破り、宇宙のような暗い空に向かって突き進む。
成層圏ほどの高さまでたどり着くと、周囲には星空が広がり、眼下には衛星写真のような世界があった。
俺が初めて降り立ったこの『国』が一望できる。
最初の街、最果ての洞窟、王城までの道のり、王城、そして世界樹までもがすべて見渡せた。
ここでは今も、多くの者たちが息づいているんだろう。
ルーコ、チコ、王様、デリバーと妖精たち、お嬢様、司令官……。
そしていままでいっしょに過ごしてきた、多くの者たちが……!
今だからこそ、言える……!
ここは、最高の『世界』……!
おまえたちは最高の『ソウルフレンド』だったぜ……!
『なにが「今だからこそ」ですか。「明日穴」から出るときも、同じようなことをおっしゃっていたではありませんか。それに、お別れみたいなムードを出してますけど、前回と同じでカウルさんの一部はまだこの世界にいるではないですか』
う……うるさいな!
いまここにいる俺は、永遠のお別れみたいなもんだろ!
これから新天地へと旅立つんだ!
水を差すルールルを振り払うように、俺は宇宙を見上げる。
星すらも消えた真っ暗な中を、ごうごうと唸りをあげながら進む。
すると、暗幕を針で突いたような、小さな白い点が見えた。
それはみるみるうちに大きくなっていって、トンネルほどのサイズになる。
トンネルの向こうは明るくて、ジェットコースターの出発点のような景色が広がっている。
トンネルの出口に近づくにつれて、光がどんどん強くなっていく。
そしてついに俺は、
……シュバァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
『異世界』に、飛び出したっ……!
薄い膜の向こうに、いままでモニターごしに見ていた港町があった。
魚を満載した馬車や、漁師のような恰好をした海の男たちが行き交う。
魚を模した看板、居並ぶ魚屋には、今日の献立を考える海の女たちがいる。
大気圏と突入のように、俺を覆っている皮膜が、燃え尽きるように剥がれていく。
すると、潮風を肌で感じる。
……おお……!
俺は今まさに、異世界の港町にいるんだ……!
しかし、初めての『本物の異世界』を楽しむ余裕はそこまでだった。
俺を覆っていた水分がなくなっていき、燃えるような熱さが襲ってくる。
「あちちちちち!? なんだこれ!? めっちゃ熱ぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!?!?」
火だるまになったみたいに暴れていると、平然と隣を飛んでいたルールルが呆れた様子で言った。
『はぁ、カウルさんは嫌気性菌だとお教えしたではないですか。それに、妖精たちが破傷風菌に酸素をぶつけていた時に、少しは触れていたでしょう』
そりゃ、酸素に触れたとき、ちょっぴり熱いなとは思ってたけど、ここまでとは知らなかったよっ!?
こりゃ、破傷風菌も死ぬわっ!
『そんなことよりも、このままだと地上に落ちてしまいますよ』
「ぬぐぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~っ!!!!」
俺は気合いを振り絞って空中制御する。
ゴルフボールがティーグランドに迫るような勢いで、目の前にいる主婦らしきオバチャンの顔面に向かって突っ込んでいく。
おっ……オバチャンっ……!
鼻か口、どっちでもいいから、俺を吸い込んでくれぇぇ!!
オバチャンの顔はよく見ると青ざめていた。
きっと、お頭の顔にビビってるんだろう。
でもあと少しで、半開きになった唇の歯の間から、侵入できるっ……!
しかし、歯と歯の間から、「ひいっ!?」と悲鳴がこぼれ、俺は突風を受け押し戻されてしまった。
「うっ……!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?!?」
そのまま墜落。
オバチャンはお腹のあたりで手を組んでいたので、そこにポトリと落ちる。
地面に叩きつけられることだけは避けられたけど、もう俺を守る水分は残りわずか。
メラメラと揺らぐ視界の中で、どんどん意識が遠くなっていくのを感じる。
『あーあ、ワンミスですね。次はもっとがんばりましょう』
ゲーム感覚のルールルの言葉を聞きながら、深い眠りに……。
と思ってたら、
……ぽいっ!
と俺はオバチャンの手のひらから、ピーナツみたいにオバチャンの口に放り込まれていた。
……なっ、なんだ!? いったい何が起こったんだ!?
慌ててお頭の脳内にいる、もうひとりの俺に意識を切り替えてみる。
お頭の視界モニターから確認してみると、そこには……。
青ざめた表情で、口を押えるオバチャンが……!
オバチャンの上品な仕草のおかげで、俺は口の中に入ることができていたのか……!
ナイス、オバチャンっ……!
俺は、オバチャンの口内を進んでいく。
お頭の口から飛び出すときは上昇していたけど、今度はその逆のルートを下降する。
途中、暗闇のなかで、薄い三日月のような光の裂け目を見つけた。
……おいルールル、アレはなんだ?
『あれは咽頭ですね。以前お教えしたように、消化器系ルートである気管を塞いでいる蓋です。いまはこの女性が唾を飲み込んでいるので、気管へのルートは閉まっているようですね』
ってことはあの光は、閉まった蓋の隙間から漏れているんだな。
もし、あの蓋の中に入ることができれば、消化器系ルート……。
つまり、お頭の身体から飛び出した場所と同じ、世界樹のある所に降りられるってことか!
『そうですね』とルールル。
俺は
そして、蓋が再び開くタイミングを見計らって、いっきに身を躍らせた。
……シュゴォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
滝壺に落下するように、一気に身体が急落する。
あたりは青い光に満ちていたので、いまオバチャンが息を吸っているのがわかった。
やさしい蛍光灯のような輝きに包まれ、俺は魔法陣を抜ける。
風もだいぶ弱まってきて、いつものフワフワとした浮遊感が戻ってきた。
そしていきなり、ステータスウインドウが開く。
キラキラとした光の粒子が、祝福のように降り注ぐなか、俺が目にしていたのは……。
名前 なし
LV 14 ⇒ 24
HP 140 ⇒ 240
MP 140 ⇒ 240
VP 0 ⇒ 100
スキル
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