第9話
俺たちは『オーワンファイブセヴン』狩りを続けていくうちに、どんどん街の南へと進んでいた。
オッサンたちは街の北側にはほとんどおらず、南側に多くいたからだ。
街の最南端はゴミ捨て場となっており、ゴミの山脈が連なっていた。
その谷間を抜けて、たどり着いたのは……。
世界に穴が空いたかのような、巨大なる風穴だった……!
その入り口の前に立つ、ルーコとチコ。
ふたりの間に浮かぶ俺とルールル。
ルーコが緊張した面持ちで言った。
「ここは『最果ての洞窟』と呼ばれる、世界中のゴミが集まる場所であります。外に積まれているゴミは、洞窟の中へと運ばれ、最深部にある『明日穴』という所から国外へと捨てられるのであります」
見回すと、ゴミの山には坑夫のような者たちが、わらわらとたかっている。
彼らはリアカーのようなものにゴミを積み込むと、せっせと洞窟の奥に向かって運んでいた。
『彼らは腸内細菌ですね。外にいる数はそれほどでもありませんが、奥にはかなりの数がいます。種類にして100種類、数にして100兆以上が大腸にいるとされています』
そうなんだ。と俺はルールルの説明を軽くあしらう。
『この洞窟はS字結腸になっていて、最深部には直腸があります。平たく言うとお尻の穴ですね。この国では「明日穴」と呼ばれているようですが、ようはアース……』
俺は手のひらで、彼女の言葉を遮った。
あの、ルールルさん、ちょっといいかな?
『なんですか?』
俺としては、目の前にあるのはラスダンのつもりなんだ。
せっかく異世界ファンタジー気分に浸ってるんだから、今だけは、現実に引き戻すような説明は控えてくれませんかね?
するとルールルは、ふいと横を向いてしまった。
『せっかく、愚劣な元人間であるカウルさんにわかるように、小学生レベルにまで落して説明してさしあげたのに……。わかりました、もういいです』
ああ、ヘソを曲げちゃったみたいだ。
俺は彼女をなだめようとしたけど、ルーコとチコが、こちらをじっと見つめているのに気付いた。
「なんだ?」と尋ね返すと、ふたりの少女はペッコリ頭を下げる。
「ここから先は、とても危険な場所であります。ですので、自分とチコのふたりで行くのであります」
「うむ。この奥はゴミでいっぱいで、下手をするとゴミといっしょに流されてしまう可能性があるのだ。そうなれば、もう二度と生きては戻れないのだ。だから、ここでお別れなのだ」
決意に満ちた表情で見据えられ、俺はギョッとなる。
「な……なに言ってんだよ、ふたりとも! 俺たちはここまで一緒に戦ってきた仲間……ソウルメイトじゃないか! 俺も一緒に行くに決まってるだろ!」
「いいえ、この国の宝であるカウル君を失うわけにはいかないのであります」
「そうなのだ! それに、カウルには別の仕事をお願いするのだ!」
「別の仕事?」
「ええ。今から街に戻って、衛兵たちを呼び集めてきてほしいのであります」
「チコたち僧侶も呼んできてほしいのだ!」
「なんで今になって、応援を呼ぶんだよ!? あっ……!? この奥に、大勢の『オーワンファイブセヴン』がいるってわかったからだな!?」
「さすがカウル君、察しがいいであります。街から南に行けばいくほど、『オーワンファイブセヴン』の数は増えていったであります。となると、この『最果ての洞窟』がヤツらのアジトだと思って間違いないであります」
「だったらふたりだけで突入するんじゃなくて、応援を呼んでいっしょに行ったほうがいいだろ!」
「それはできないのだ。なぜなら、南に行けばいくほど、街の損傷は大きくなっているのだ。援軍の到着まで待っていたら、被害がさらに大きくなってしまうのだ」
「そんなのが、お前たちだけを危険な目にあわせる理由になるかよっ! 俺は何と言われてもついていくぞ!」
するとルーコとチコは、木に止まったカブトムシを捕まえるかのように、俺にじりじりと寄ってきた。
危うく掴まれそうになって、俺は寸前でかわす。
「なにするんだっ!? あっ、さては捕まえて、遠くに投げるつもりだなっ!? そうはさせるかよっ!」
「大人しく、捕まるであります!」「とっとと捕まるのだーっ!」
この時、俺は自分の身体の制御にも慣れていたので、ふたりの間をハエのようにブンブン飛んで逃げ回った。
「なんという、すばしっこさであります! さすがはカウル君であります!」
「感心している場合ではないのだ! せーので飛びかかるのだ! せーのっ!」
……ゴチーンッ!
激突して崩れ落ちるルーコとチコをよそに、俺は考えた。
このふたりはガンコなようだから、一度言い出したら聞かなそうだ。
だからといって、こればっかりは大人しく従うわけにはいかない。
俺がついていくことを納得させて、かつ、彼女たちの危険も減らせる方法は、ないもんだろうか……?
そんな妙案などあるわけないと思ったが、すぐに閃いた。
おいっ、ルールル! 教えてくれ!
しかし件の妖精は背を向けたまま、『嫌です』とにべもない。
そ、そんなこと言わないで、頼むよ!
俺が悪かった、反省してます! このとーり!
心の中で土下座をして、彼女はようやくチラリとこちらを向いてくれた。
『……なんですか?』
『なんだ、そんなことですか。
よおし、じゃあさっそく使ってみるとするか!
でも発動には、貴重なVPを使うのか……。
いやっ、今はそんなこと言ってる場合じゃないっ!
俺はネトゲで仲間がピンチの時は、貴重なアイテムだって惜しみなく使う。
だからイザという時には、パーティメンバーから頼りにされていたんだ。
横でルールルが、『それも、利用されていただけですって』とチャチャを入れてきたが、俺はもう止まらない。
「
叫んだ途端、俺の身体は太陽のようにぺかーっと輝きだす。
「うわっ、何事でありますか!?」「ま、まぶしいのだーっ!?」
俺の真下にいた少女たちは、まばゆい光に照らされていた。
ふたりとも、直射日光を見てしまったよう目をしばたたかせている。
俺は、えもいわれぬ感覚に支配されていた。
身体から、もうひとつの身体がずるりと抜け出ていくかのような……。
脱皮のようなんだけど、新しい身体のほうだけでなく、抜け殻のほうにも意識が残っているかのような、実に奇妙な状態。
気付くと、俺の目の前には、もうひとりの俺がいた。
まるで鏡合わせになっているみたいに。
お……俺が、もうひとりいる……!?
まさに、増殖したんだ!
増殖すると別の人格になるかと思ったんだけど、どちらも俺の制御下にあるようだ。
見えているもの、聞こえているもの、肌で感じているもが2倍になっているんだけど、不思議と混乱しない。
「「う……うわあーーーーーーーーっ!」」
歓声とともに、俺の身体はふたつともさらわれてしまった。
ひとつは、やわらかい手の感触、もうひとつは、ちっちゃな手の感触に。
「カウル君が増えたのであります! これは、とっても喜ばしいことなのであります!」
「かわいさ2倍なのだ! まるでお盆と正月が、いっしょに来たみたいなのだーっ!」
ふたりの少女からの同時モフモフは、いつもの倍以上に気持ちよかった。
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