第8話

 僧侶のチコが使っていたスキル、『血栓フィブリン』。

 これが投網みたいな見た目だったので、もしかしたら悪いヤツを捕まえるのにも使えるかと思ったんだ。


 しかしチコはそんな風にして使ったことはなかったらしく、青天の霹靂に打たれたような顔をしていた。



「すごいのだ! チコもこれを使えば、ルーコの戦いを助けられるのだ!」



 そして、それからの俺たちは新しい戦い方を編み出した。

 『オーワンファイブセヴン』を見つけたら、まずはルーコが名乗りをあげて、



「見つけたであります、『オーワンファイブセヴン』! 見つかった以上、どこにも逃げ場はないのであります! 素直にお縄につくであります! これは、警告であります!」



 オッサンたちは警告を無視し、当然のごとく襲いかかってくるのだが、そこで俺とチコが、



血栓フィブリンっ!」



 と糸で絡め取って、捕縛……!


 本当は警告などせず、不意打ちをすればもっと簡単に捕まえられただろう。

 でもそれをしなかったのは、卑怯なことはしたくないというルーコのこだわりであった。


 そしてこの作戦は、歯車のようにカッチリと噛み合い、俺たちは勢いよく回りだす。

 見つけた『オーワンファイブセヴン』を、手当たり次第に撃破していく。


 これにはさすがのルールルも、珍しく素直に驚いていた。



血栓フィブリンというのは本来、赤血球や血小板などを絡めて止血する網なのですが、まさか大腸菌の活動を抑制するために使うとは……。無知というのは、時に革命をもたらすのですね』



 褒めるのも素直じゃないツンデレ女神であったが、正直、悪い気はしなかった。

 そして褒められると伸びるタイプの俺は、さらなる新戦法を思いつく。



「そうだ! 憑依ポゼッションも併用すれば、さらに『時給』が高くなるかも!?」



 『時給』というのはネトゲ用語で、1時間あたりに稼げるお金や経験値のことを指す。


 ネトゲというのは同じことの繰り返しが基本なので、同じ時間を掛けるならば、より多くのリターンを得られるように試行錯誤をするんだ。

 たとえば、狩る対象のモンスターに合わせてパーティメンバーを変えたり、装備やスキルの組み合わせを工夫したりする。


 俺はいつの間にか、オタクグループと遊んでいたネトゲと、いまの状況を重ねあわせて考えていたようだ。


 新しく考えた作戦というのは、2体以上の敵と戦う場合、俺は最初に血栓フィブリンのスキルを使い、1体を網で動けなくする。

 その1体に突っ込んでいって、身体の中に潜り込み、憑依ポゼッションのスキルを発動すれば……。


 俺ひとりだけで、1体を倒すことができる。

 その間に、残った1体はチコとルーコのコンビネーションによって倒されている、というわけだ。


 俺にとっては大忙しなこの作戦、1戦終わるたびにMPがカラになって大変だったのだが、メリットもあった。

 今までは俺はアシスト役だったのだが、アタッカー役にもなったおかげで、経験値が入ってくる。


 そしてついに、レベルアップ……!



 名前 なし

 LV 2 ⇒ 3

 HP 20 ⇒ 30

 MP 20 ⇒ 30

 VP 10 ⇒ 20


 スキル

  潜伏ステルス

  吸収ドレイン

  憑依ポゼッション

  看破インサイト

  増殖レプリカント

  血栓フィブリン



 VPが20ポイントになったので、せっかくだから何かスキルをパワーアップさせてみよう。

 今だと、戦いを効率的にするために、血栓フィブリン憑依ポゼッションかなぁ?


 こうやってスキルポイントの割り振りを考えるあたりも、本当にネトゲみたいだ。

 しかしそれがまた楽しかったりするんだよな。


 俺は悩んだ挙句、憑依ポゼッションをパワーアップさせることにした。



 名前 なし

 LV 3

 HP 30

 MP 30

 VP 20 ⇒ 10


 スキル

  潜伏ステルス

  吸収ドレイン

  憑依ポゼッション ⇒ 憑依ポゼッション

  看破インサイト

  増殖レプリカント

  血栓フィブリン



 受容レセプターをパワーアップさせた時は、看破インサイトに名前が変わったけど……。

 今回は名前の後ろに数字が付いたので、たぶんスキルのレベルが上がったんだろう。


 どう違うかは使ってみればわかるだろうと思い、そのあとの戦いで、さっそくレベル2になった憑依ポゼッションを試してみた。

 オッサンの身体の入りやすさは変わらず、破裂させるまでの時間も同じだったのだが、倒したあとに、



 名前 なし

 LV 3

 HP 30

 MP 30

 VP 10


 スキル

  潜伏ステルス

  吸収ドレイン

  憑依ポゼッション

  看破インサイト

  増殖レプリカント

  血栓フィブリン

  NEW! 耐酸レジストアシッド



 新しいスキルが増えた……!?



憑依ポゼッションはレベル2になると、対象を死滅させると同時に、対象のスキルを吸収ドレインできるようになります。ただ吸収できる確率は吸収ドレインよりもだいぶ低くなりますが』



 ランダムドロップというわけか!

 これは戦いがさらに楽しくなりそうだな!


 新しくもらった、『耐酸レジストアシッド』は……。

 酸に強くなるパッシブスキルかな?


 でも、なんで酸に対する耐性なんて持ってるんだろう?



『病原性大腸菌であるO-157の感染経路は、経口けいこう……つまり、口からです。例えば、菌に汚染された食品を人間が口にすると感染します。しかし菌が大腸に向かうまでには、強い酸性を持つ器官があるのです』



 強い酸性を持つ器官……?

 そうか、胃か!



『はい、その通りです。口から人間の体内に入った細菌は、多くが胃酸によって死滅します。しかしO-157は酸に対する耐性を持っているので、胃では溶けずに腸に達するというわけです』



 な、なるほどぉ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る