第8話 悩み事と期待と幼馴染

「なんでいるの!?」

 1人で大地と松雲さんについてブツブツと考えていたらいつの間にか隣に凪がいた。


「なんでって言われても、3組の教室の前で森文もりふみがウロウロとしてたらそりゃ声かけるって」

「え、あ…あぁ…気が付かなかった」

 どうやら3組の教室前の廊下でグルグル回っていたらしく見かねてなぎが声をかけてきたようなのだ。どんだけ考え込んでたんだろう俺。


「そんなことより桜里さくりちゃんがどうかしたの?」

「あぁ、それなんだけどな。うーん……まぁ凪ならいいか」

「なに?ものすごく気になるんだけど」

 首を傾げる凪。その仕草が可愛く見蕩みとれてしまうほどだった。

「それがだな」


 キーンコーンカーンコーン。


 凪に説明しようとしたところで授業休みが終わってしまった。

「詳しいことは後でメールする!!!」

 俺は慌てて2組に戻りながら凪に大声で伝えた。そのまま俺は2組に駆け込んだため、凪の反応は見れなかったがおそらく大丈夫だろう。

 そう信じて、俺は自分の席に着き急いで教材を用意した。運良くまだ教師は到着していなかった為セーフである。


 数学、現国と淡々と授業が進みすぐさま昼休みになった。授業中はなんとなく外の景色を眺めてボーッとしたりしていた。

「おっ昼ーーー!ご飯食べよーーー!」

 いつも通り凪が教室に飛び込んでくる。それに向かい打つ松雲さん。

「凪ちゃーん!今日も可愛いね!」

「さっきも会ったじゃな~い桜里ちゃん」

「えへへへ~」


 それを見た俺と大地だいちの男子陣はと言うと。

「なんだあのイチャコラはけしからん。大地ちょっと写真撮っといてくれ」

「それ言うならフミがやれよ。今俺は脳内保存するのに忙しいんだ」

 凪と松雲さんが抱き合っているのを遠目に眺め、俺らは俺らで楽しんでいた。


「ねぇ!早く席セッティングしてお昼食べよ!」


 松雲さんとのやり取りがひと段落ついた凪が俺に近づいてきた。

「おー、そうだね!食べよ食べよ!」

 俺はそれに元気に応じた。

 すると突然、凪が俺の手を握ってきたと思ったら、俺に小さなものを握らせてきた。非常にドキドキした。凪が突然恋に目覚めたのかと、俺の頑張りが報われたのかと淡い期待をしてしまった。しかし、手元を見ると小さな紙。そして小さく文字が書かれていた。


『 さっきの話は部活前にしましょ


 今日の午後の授業終わったら部室棟の裏で待ってるわね 凪より♡』


 分かってたよ。分かってましたよ。泣いてませんよ?ええ、泣いてませんから!決して、凪が恋に目覚めて俺を好きになったっていう期待をしてたわけじゃないから!


「どうしたフミ、飯食わんの?」

「ん?」

 見ると既にセッティングが完了しており、各々に昼飯を食べ始めていた。


「なんでもない。俺も食べるに決まってんだろ」

「変なのー、さっきもなんか深刻な顔してトイレに誘ってたし」

「ちょ!おま!!!」

 口止めしてなかった俺が悪いのだが、まさか大地がそのことに触れるとは思わず、急いで俺は大地を止めた。

「ん?もしかして言っちゃダメだった?」

 やってしまったと言ったような困り顔の大地。

「大丈夫だけど、少し控えてくれると助かる」

「おっけー」

 俺の言葉を聞くと安心したのか、満面の笑みで親指を立てて大地は返事をした。


 俺はチラッと凪の方を見ると松雲さんと話すことに夢中なのかこちらを気にする様子はない。どうやら先程の会話は聞かれていないようだった。俺は安心した。悩み事をしていることを極力凪に知られたくない。



 凪には極力俺のことで悩んで欲しくないから。

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