第5話 雨降って地固まって、そして……

「それで?今回はどっちが悪いの?」


 大地だいち松雲まつくもさんの喧嘩の仲裁にやってきた俺は、2人に事情を聞き始めたのだが。


「「こいつが!!…はぁ!?」」


 仲が良いのか悪いのか、2人は息ぴったりにお互いを指さしていたのだ。そしてそれを見て、ありえないと言った表情や仕草までほぼ揃っていた。


「夫婦漫才かよ」

 思わず口に出てしまっていた。


 それを聞き大地と松雲さんは反論を始めた。

「ちょっとやめてよ、こんな野球と筋肉しかない脳筋坊主頭と夫婦とか!」

「はァーーー!?よく言うわ!桜里さくりだって脳筋じゃねぇか!ポンポンポンポン俺のこと叩きやがってよ!!」

「私だってできれば叩きたくないわよ!叩かれるようなことを大地がしてるのが悪いんじゃない!!」

「なんだとぉぉ!!」

「なによ!!!」


 大地と松雲さんの2人して勝手に口論を始めた。だがこっちの方がまだ都合がいい。あのままお互いを無視し合っていたらどうしようかと考えていたのだから。


「2人して喧嘩するのはいいけど今は俺を無視しないでね?」

「「あ、ごめんなさい」」


 だけど今は早急に止めないといけない。大好きな凪が待っているんだから!!


 てか大地と松雲さん息ぴったりだな。


「んで、松雲さん。

 何でこうなってるの?」

「あー、えっとね……」

「おい俺は無視かよ!」

「大地はとりあえず黙っといて、ね」

「う、うぃっす


 ……森文もりふみこえぇ……」

 ひとまず、多少冷静さが残っている松雲さんに話を聞くことにした。大地に聞くとまともに返ってこない気がするのもあるのだけど。


 というか、俺の顔を見た大地が途端に血の気が引いた様な表情になってるんだけど何があったのだろうか。そんなに怖い顔してないと思うんだけど。



 それから俺は松雲さんから話を聞いた。聞いてみたらそれはもうアホらしい話だった。


 きっかけは予想通り今朝の1件からだったようなのだが、なんというか結論から言うと大地が全面的に悪かったということになった。

 どうやら「教室でガチ勝負するな」というのをアホな大地なりに頑張って理解した結果「教室じゃなければ」といった結論になっていた。


「桜里が教室で野球するなって言うからちゃんと別のところでやってたじゃん」

「だからって廊下でやる?しかも相手いないからって階段に向かって壁当てって……流石に呆れたわよ」

「今日は部活できるって思ったらなんかうずうずして!」

「そこは我慢なさい!!!」

「えーーーー!」

「後で私が相手してあげるから」

「よっしゃ、流石桜里!話が分かってる!」


 ともあれ二人の仲はいつも通りに戻った。恐らく俺がいなくても解決出来てたのかも。


「2人が仲直りしたようだし、早く昼飯食べようぜ!凪が準備して待ってるからさ。」

 2人の肩をポンと叩き、凪の待つ自分の席へと誘導しながら俺はそう言った。


「そうだ!飯だ飯!腹減った!」

「そうね、すっかり凪ちゃん待たせちゃってるみたいだしね」

 急いで2人は自分の席へ自分のお弁当を取りに戻った。


「あ、これ言い忘れてた」

 何かを思い出したのか自分の弁当を持った大地が俺の方にこれまた急いで戻ってきた。

「なんだ?」

 何を言われるのだろう、と待っていると。


「さっきはありがとな!

 フミがいなかったらまたみんなで飯を食べようとすることも出来なかったかもしれないしさ!それによく分からないけどさ、桜里とは離れたくないんだよね。だからさ、フミが来てくれてよかったよ!」

 大地が感謝してきた。実は先程までとても不安だったのだろうか、それともその緊張がとけたからなのか、大地の体が震えているのも見てとれた。大地にとっても4人での日常が大事なことだとわかりとても嬉しかった。


「何を言ってんだよ俺ら友達だろ!それよりも早く飯食うぞ!今日も後でキャッチボールするんだろ?」

「おう!当たり前だっ!」


 そうして俺らは凪の待ついつもの場所へとついた。

「おかえりなさい」

 凪はとても嬉しそうに笑っていた。


 凪の笑顔をその目で見れる。それだけで俺は幸せなのだ。


 そうして今日も“いつもの”日常が始まったのだった。

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