第4話 大好きな幼馴染の為なら


 午前の授業が終わり、昼休みになった。


 昼休み開始のチャイムが鳴り授業が終わると、決まってお弁当箱を持ったなぎが、隣の2組の教室から俺、大地だいち松雲まつくもさんのいる3組の教室へとやってくるのだ。


 そして今日もいつも通り、お弁当箱を持ってなぎが綺麗な黒髪をなびかせながら、3組の教室へとやってきた。


森文もりふみ~、お昼食べよ~!」

「あー、ちょっと待って今机の上片付けるから」


 時間ギリギリまで授業が続いた為、凪が3組に来た時の俺の机の上は、さっきまでの授業で使ったノートや教科書が広げられたままの状態だった。


 俺は弁当を置くスペースを作るため急いで机の上を片付け始めた。


「は〜い」

 そう言って凪は、ほぼ普段通りの昼休み中の3組の教室をキョロキョロと見渡していた。


 ほぼ普段通りなのである。


 金髪でスポーツ刈りの長身マッチョな男子と、赤茶髪でサイドテールの小柄だが胸の大きい女子が喧嘩してる点を除けば。


 それに気づいた凪は


「ねぇ、森文……?

 なんで小森くんと桜里さくりちゃん、背を向けあってるの……?」

 目の前の状況が信じられないと言った様子で、机を片付けている途中の俺に理由を聞いてきた。

 俺が机を片付けるのを待っている凪の視線の先では、普段は仲のいい2人が、お互いに顔を合わせようとしない険悪なムードただよう光景が広がっていた。


「あー……やっぱ気になるよね……

 っと、よし綺麗になった!

 んじゃ俺は、そこで背中合わせて啀み合ってる2人を連れてくるわ。

 詳しいことはその時にする。俺に任せときな!

 凪は自分の昼飯用意して待ってて。

 なんなら先食べちゃってていいや」


 机の上を片付け終わった俺は、2人を連れてくると凪に伝えた。

 正直面倒なことは嫌だから避けたいのだが、親友とその幼馴染が喧嘩しているのを黙って見ているのはもっと嫌なのだ。


 大地と松雲さんの険悪な様子を見て不安そうな表情をしていた凪だが、先程の俺の言葉を聞くと、俺の行動をあらかじめわかっていたのか、それとも違う別の要因もあったのだろうか、少しづつ表情が穏やかになっていった。


 すると凪は、涙を少しだけ流しながら、元気を与えつつ癒される、そんな独特で可愛らしい笑顔でポツポツと話し始めた。


「やっぱ、森文は森文だね……。すごいや。

 桜里ちゃんと小森くんのどっちも私にとって大事な友達なのに…私は怖くて動けないもの…。動ける森文はほんとすごい……。

 だから、2人をお願い……。

 森文と桜里ちゃんと小森くんと私の4人で……

 いつもの4人で、仲良くお昼を食べたい」


 凪の些細ささいな変化を見逃さないようにする為、俺は凪の顔を見ながら、静かに、じっくりと凪の話を聞いていた。


 俺が真剣に聞いているのが何やらおかしかったのか、凪は「ふふっ……」と笑い声を漏らした。

 今ので少しだけだが、凪にいつもの明るさが戻ってきたように思えた。


 そして凪はまた話を再開した。


「それでね、いつもみたいに、食べ終わってから校庭に出て昼休み終わるまでキャッチボールしてさ、気づいたら私たち全員汗だくになっちゃってるの。

 森文と小森くんは男性用ボディースプレーで、私と桜里ちゃんは女性用の制汗剤兼香水で、何とか汗の匂いを誤魔化そうとするの。

 今日もそんな、“ いつもの日常”を“ いつもの4人”で過ごしたいの。

 だからさ……森文、お願い……!

 何があってあの2人が喧嘩になっているのかは、違うクラスの私にはわからないけれど、森文なら……!

 森文なら、あの2人のこと私より全然知ってるでしょ……?」


 話終わる頃には、また凪は泣いてた。

 大地と松雲さんの2人が喧嘩しているのが、凪にはとても辛い事なのだろう。


 俺にとってもこの状態はとても辛い事だ。


 しかし何よりも、凪が、小学生の頃からずっと大好きな幼馴染の凪が、心を痛め辛い顔をしているのが俺にとってはもっと辛い。


 ならば俺が取る行動は決まっている。


 俺は凪に背を向けた。


「さっき言ったろ?

 俺に任せろって。

 だから凪は、俺らが戻ってきた時にいつでも飯が食べれるように準備して待っててよ」


 そう凪に伝えた俺は、大地と松雲さんのいる所へと向かった。


 修羅場へと向かっているというのに、俺は恐怖を全く感じなかった。


 そして俺は2人の元に着いて早々に、

「やぁ、大地と松雲さん。

 お昼ですよ?そろそろ仲直りしない?」

 と直球で問いかけた。


 2人は驚いた様子で俺を見たが、それでもいがみ合うことはやめない。


 俺も流石にそんな簡単にこの2人仲直りするとは思っていない。


 だが絶対にこの2人を仲直りさせてやる。

 凪が辛そうにしているのを俺はこれ以上見たくないのだ。






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