第2話 ベッドの上での足掻き

 これは俺が凪に告白した次の日の朝のこと。


森文もりふみ起きろーー」

 俺の部屋のベッドでぐっすりと寝ている俺を凪が起こしに来た。


 凪と俺の家は向かいあわせだ。

 お互いの両親の仲が良く、困った時があったらいつでもそれぞれの家に入れるようにと、二人共合鍵を持たされている。

 めったに使う機会なんてないが。


 そして、今現在凪は俺ん家の、そして俺の部屋にいて俺のことを起こしに来た。

 俺らにとってこれが普通のことで日常だ。


「凪、今時間は…?」

「6時半だけど」

 さも当然のように凪は返す。


「早すぎんだろ……


 せめてあと30分……」

 昨日、遅くまで起きていたこともあってまだ眠いのだ。

 普段は7時半とかなのになぜ今日に限って早いのだろうか。


「むー…そんなことを言うんだったら今度こそ森文のお母さんにあのこと言っちゃうよ?」

 目を開けてないので凪の様子を伺えないが

 おそらく腰に手を当てているのだろう。

 想像しただけで可愛い。


 あ、元から凪は可愛かったわ。


「あのことってまたかよ…何度も言ってるけど凪が実際に言ってるの見たことないんだけど」


 凪は俺を起こす時、いつも“あのこと”で脅してくる。

 いつもは結局負けてしまうが今回は屈しない。そう決めた。


「それは言おうとする前に森文が起きるからじゃん

 ホントは言われたくないんでしょ?

 ほら早く起きよ?起きたらお母さんには言わないからさ」

「そんなんじゃないから、別に隠すことじゃないし!」

 いつものやり取りをしているといつの間にか目が冴えてきた。だが起き上がりはしない。

 まだ時間があるのだから。

 ベッドに目を開けたまま寝そべり凪を見ると

「ふーん?そう…」

 そう言いながら凪は明らかに一点を見つめていた。勉強机の引き出しだ。


 そうして凪は動き出し、俺が止める間もなく、凪はその引き出しにたどり着いた。


 ガラッと上から二段目の引き出しを開け、躊躇ちゅうちょなく手を突っ込み、そしてあるものを取り出した。

「それじゃこれはなんですか?」


 そこにあったのはまごうことなきエロ本。

 男子中学生なら誰もが持っているであろう聖書のごときエロ本だ。

 だから俺はこう答えた。

「エロ本ですがなにか?」


 はぁ…と呆れ本を机の上に積みながら凪は続けて質問した。

「こないだより増えてない?」


 俺はためらうことなく

「我慢は体に良くないからね」

 キメ顔で言った。ベッドに寝そべりながら。


「あっ…そうですか…」


 スンと凪の目が座り、わーめんどくせーと言った表情をしていた。


「それで起きるの?起きないの?

 起きないならこの本はお母さんに見せることになるけど?


 きっと捨てられちゃうだろうな~

 残念だったね~


 それじゃっ…」

「起きます起きますからそれだけは勘弁を!!」


 正直親にエロ本持ってることがバレるのもだけど、捨てられるのが一番応える。


「なら早く起きて制服に着替えて」

「へーい」

 俺はそう言ってベッドから出た。そして壁にかけてあった制服が掛けてあるハンガーに手をかけた。


「あの、凪さん?」

「何?」

 何も問題がないかのように、凪はきょとんとした顔をしてこっちを見る。

 凪が首を傾げた際に肩まで伸びた黒い髪がヒラっとなり思わず見とれてしまった。


 しかし、それよりも今の問題だった。

「着替えるから、一旦出てってほしいんだけど」

「後ろ向くから問題なくない?」

「あー、もうそれでいいや」


 昨日の告白で分かってはいたけど俺のこともしかして男として見てないのだろうか。

 あまりにも告白された翌日にとる行動ではなかった。


 少しでも男だと意識してもらいたく俺はあることを思いついた。




「着替え終わったよ」

 そう告げると先程まで背を向けていた凪が俺の方を向いた。

「思ったより早かったわ…ね…


 って森文なんで上何も着てないの!?」

「いや何となく…

 どうかな?」

 小学校からやっていた野球を今でも続けているため、身長は低いにしても筋肉については自信があった。

 これで少しは男を意識してくれるだろうと思い決死の覚悟で行動してみた。


「まぁ…うん…いいんじゃない?

 てか寒くないの?」

 思ったより冷めた反応だった。

 どこを間違えたのだろうか。


 そう考えながら俺は制服の残りのシャツとブレザーを着た。最後にネクタイを締めたのだが、形が整わず曲がっていたのだろう。



「ネクタイ曲がってるって…」

 正面に回り込んで凪は俺のネクタイを綺麗に締め直された。


 その時凪の顔が近く、かなりドキドキしてその後学校着くまでまともに顔を合わせられなかった。


 凪に俺を男だと自覚させるのはまだ遠そうだ。

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