第47話:ロムルス・ポリス攻囲戦:突破
***
一刻後。天上に被さる巨大な魔法陣が、朝日に煌めく中。魔王軍の総力を挙げた攻囲戦が再開された。
今日の狙いは、一カ所に定められていた。アングエル隊が城下を駆け回っている間、ロムルス・ポリス北郊から半弧を描いて展開した鬼人騎士団は、あらん限りの魔法弾を投射。前日のうちに見つけた南門左手の市壁──土台が緩んだ城壁を狙い撃ちにする。
シェイド隊は亀甲陣形を組み、ロムルス・ポリスの市壁に突撃。魔王軍の意図を敵に悟られないよう、西面や北面の鉄城門に衝車を押し入れる。30人のオークが動かす8輪の櫓は、水を染み込ませた木製の屋根と骨組みに、鉄製の円筒を提げた振り子から成っている。鐘を鳴らす丸太の如く、鋳鉄の円筒がロムルス・ポリスの城門を歪ませる。衝撃は轟音となり、衝車やオーク兵の鼓膜を激しく振動させる。
イスタニア王国軍は、胸壁から火矢や炎弾を放ち、衝車を焼き払おうと試みる。そうはさせまいと、シェイド隊の後方に付いたテンプター隊のシャーマン部隊が、流水魔法で衝車を即座に消火・冷却する。
半刻後。南門の守りに当たっていたイスタニア兵が、俄に騒ぎ始めた。
アークフィート隊の伝令が、本営の天幕に駆け込んでくる。
「──アークフィート隊より、本営に報告! 南門左翼の壁に大きな揺らぎあり。近く、崩壊の模様!」
「そうか」
ベリアルは、鬼人騎士団の左脇に待機しているクルート隊に出撃の伝令を出す。
次いで、ベリアルは傍らのエルトルトに呼び掛ける。
「クルート隊が血路を開き次第、俺とアークフィートも市街戦に参加する。本営は野戦病院に転用。テンプター隊を後ろに下げ、シャーマン部隊に優先権を与えろ」
「畏まりました。万一の逆包囲に関しては。いかが対処されますか?」
「来るとすれば、先に刃を交えたエリネからの部隊だろう。テンプター隊で足止めをしつつ、鬼人騎士団に急報を出せ」
「畏まりました」
「……。時に、エルトルト」
「はい?」
「ロムルス・ポリス攻略後の身の振り方について、魔王は何と言っている」
「未だ検討中。とのことでございます」
「ことと場合によっては、制圧したロムルス・ポリスをすぐに放棄することになるかもしれない。モノとユニの予備戦力を丸々温存しているとは言え、イスタニアを殲滅できるほどの継戦能力を、遠征軍は持ち合わせていない。ネア・ポリスにいる親衛隊にも探りを入れ、魔王の言質を取れ。良いな」
「畏まりました」
*
半刻後。
完全武装のベリアル直下3500騎が、南面のアークフィート隊と合流した。
「将軍」
「アークフィート。戦況はどうだ」
「クルート隊の突撃は、非常に勇猛でした」
「あれが、突破口か。……」
ベリアルは、ロムルス・ポリスの市壁に開いた「穴」を見やる。実際のところ、それは穴とは言いがたく、無数のレンガによって築かれた小高い丘のようになっている。足場の悪い瓦礫の岡を越え、クルート隊3000余りはロムルス・ポリスに切り込んだのだ。現在、アングエル隊がそれに続いている。
ロムルス・ポリスの市内も、相当な混乱状態に陥っているのだろうか。胸壁から放たれる矢玉の数は減り、城壁の上に立つイスタニア兵の数も、目に見えて減っている。
「アングエル隊の突入が完了次第、鬼人騎士団も前進する。市内に入るのは、先行部隊の報告を待ってからだ」
「はい」
10分後。ロムルス・ポリスの内部から、ゴブリン族の騎兵が駆け込んできた。
「──報告! アングエル隊、ロムルス・ポリスの外縁地区を掌握。クルート隊は市内に深く斬り込み、激しく交戦中。両部隊、戦死者多数!」
「敵の迎撃パターンに、目立った変化はあるか?」
「魔法と弓矢の比率に変化なし。遠距離攻撃よりも、ゲリラ戦に軸足を移している模様です」
「……足手まといを嫌ったのか、それとも、最後の良心だったのかは知らないが、イスタニア王国軍は民間人のほとんどを地方に疎開させている。ゲリラ戦を過度に恐れる必要はない。そのまま、市内中央にある大神殿を攻め立てろ」
「はっ!」
ゴブリン族の伝令は、勇んでロムルス・ポリスへと戻っていく。
「アークフィート。我々も行くぞ」
「了解です」
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