第12話:拷問生活:来訪
「ど、どうぞ……?」
アークフィートは、恐る恐る言った。
ギィイイイ……と、扉の蝶番が呻く。
「失礼するよ。…………。どうしたんだい? 二人とも。グリフォンがデコピンを食らったような顔をして……」
浅黒い肌をした少年が、肩をすくめながら入ってきた。
この者が、ただの子供でないことは、纏っているオーラや、鋭い目付きから見て取れる。豪奢な首飾りや、煌びやかな腕輪、繊細かつ禍々しい刺繍が施された法衣もまた、彼の威風を高めている。頭身だけが、彼の少年性を表している。
魔王は迷いなく、アルベリの目の前に立つ。
アークフィートは畏れをなし、その場から三歩ほど引き下がる。
「どれどれ……。この男が、噂に聞く人間の生き残りだね。カイロサンドリアでは我が同胞たちが世話になったよ」
「お前は……」
アルベリは、魔王の眼を睨み付けた。片方は蛇の目。片方は猫目。見る者の魂を吸い取るような、磨き抜かれた玉のような魔眼である。そして、その瞳の深淵が、紅く光る。
「──僕は、魔王ディアボロス……」
「お前が────ァアアッ!! ッ!! ────あァああッ!!!!
ガチンッと、アルベリを拘束する鉄具が悲鳴を上げた。壁ごと抜け落ちるような衝撃が、空気を震撼させる。アルベリの鼻っ面が、魔王の眉間に迫る。
アルベリの目は、握り潰した無花果の断面のように、血走っている。
「噂通り、活きが良いね。……さすが、人間族の元軍人だ」
「お前が魔王かッ! カインを返せ! 他の仲間はどうした!? ミルティウスは! ガエピオは、クラウスは! 街の負傷兵はどうしたっ!?!?」
「個別の案件はさすがに把握してないよ。……ちなみにだけど、今現在、君以外の人間を魔界では養っていない。カイロサンドリアの郊外に埋めたか、グリフォンやキメラの餌になったか、君のように誰かに買われた後、ぞんざいに扱われて死んでしまったか。そのどれかだろうね」
アルベリは尚も仲間の名前を呼び続ける。アンリウス、ルクレウス、ツリウス、ゲタルバ、トリアブス……先に挙がったミルティウスは伝令であり、アンリウスはオークの投石に斃れた兵士である。
彼の豹変ぶりに、アークフィートは度肝を抜かれ、立ち竦む。
「大丈夫だよ、アークフィートちゃん。少し悪戯をしただけさ」
魔王は微笑すると、アルベリの顔面に、短く息を吹きかけた。
「──っ! 、……」
アルベリの全身から、力という力が全て抜き取られていく。
体のあちこちから、異常な量の汗が噴き出し、流れていく。
「ちなみに。君たち人間が殺して回った魔族にだって、名前くらいは付いている。ベノン、オーナ、マルマラ、アルケトル、ジャルム、テノン、グレイモス……。はぁ……、ゴブリン族だけを読み上げても、夜が明けそうだ」
魔王は、喉を鳴らして笑う。
「……全て数え終わった頃には、君は餓死しているだろうね」
アルベリは激しく肩で息をしながら、魔王の顔を見る。
魔王は口元こそ笑っていたが、目は完全に冷えていた。
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