第11話:拷問生活:告白
「……ぉ、おう。……」
アルベリは、突然のことに驚きを隠せないでいる。
「……この魔法は魔力の消費が大きいので、30分くらいしか効きません。だから有効活用してください。……あと、今日の治癒魔法はナシです。魔力を使い切ってしまったので」
「……ぁあ。分かった」
アルベリは咳払いをする。微かに、血の味がこみ上げる。
「……お前の名前は、アークフィートで合っているのか?」
「はい。アークフィート・レオーガスと言います。レオーガス家の三女です」
「レオーガス家って言うのは、名門貴族か、或いは金持ちなのか?」
「鬼人族の貴族で、代々戦士の一族です。お金もたくさんあります」
「ここは、カイロサンドリアか?」
「はい。カイロサンドリアにある、レオーガス家の屋敷の離れです」
「お前が、俺をいたぶっている理由は?」
「……」
「人間が嫌いなのか?」
「……好きか嫌いかと言われれば、嫌いです。……でも、嫌いなヤツは、魔族でも大嫌いです」
「じゃあ、他に理由があるのか?」
「……」
「……真顔で黙るな。答えてくれ」
「……貴方は、私に命令できる立場ではありません」
「じゃあ、俺はお前の何なんだ?」
「……それは、私の気分次第です」
「今の俺は?」
「……話し相手です」
「さっきまでは?」
「サンドバッグです」
「……何で、俺が、お前のサンドバッグになっているんだ」
「それは……、……」
「……時間を稼ぐな」
「そんなつもりじゃ、ありません……っ、……」
アークフィートは、縮こまる。彼女は口を固く結び、どこか一点をじっと見つめている。まるで、親に悪事を隠している子供のようだ。
アルベリは、質問を変えることにする。
「……俺を買ったのは、お前か? 違うよな。親が買ったのか?」
「はぃ。……お父様が、……私に買ってくれました……」
「お前のお父さんは、何で、お前に俺を買い与えたんだ」
「それは、……」
アークフィートは、
「……言いづらいのか?」
「…………お父様が、私を嫌っているからです」
「嫌っている?」
アルベリは聞き返した。
「はぃ。……っ、……、そぅ、です……っ」
アークフィートは、突然ぐずり始める。
アルベリは、直感的にしまったと思う。
「ぁー……。嫌なら話さなくて良い。それより、もっと有益な話題を……」
「お父様は、私が冒険者に攫われてから……冷たくするようになりました」
アークフィートは勝手に話し始めた。
アルベリは、黙って聞くことにする。
「……お父様だけじゃありません。お母様も、お兄様も、お姉様も……みんなそうです。人間ごときに捕まって、ツノまで盗られた恥さらしだって、……っ、凄く、怒られて……」
「……」
鬼人族のツノは、竜人族のツノに次いで価値がある、換金資源である。装飾品にしたり、薬にしたりと、用途が広いのだ。
「みんな、私のことを“
「それは、気の毒だな。……」
「ツノが片方しかないと、魔力も半分だし、足下もフラフラするから、戦士として認めてもらえません。……っ、キズモノだから、貴族のお嫁さんにも行けません。魔王城の召使いにも、……なれません。……でも、穀潰しだから家でも大事にされません……」
「それは、……なるほど。お前が荒れている理由は、十分に分かったよ」
「お父様は、『──お前は、拷問の腕でも磨いてろ』って……、お前にはそういう汚れ仕事しか似合わないって言われて、……」
「……」
「お父様とお母様は、それでも、結局私を追い出そうとして、……っ、……私は、コボルト族の王さまに、妾として仕えることになりました……」
「そりゃまた、よりにもよって……」
「本来なら、鬼人族とコボルト族は、釣り合いが取れません。……けど、半年前の厄災をきっかけに、魔族どうしで仲良くしよう、みたいな空気が強くなりました。そのせいで、私みたいな、厄介払いみたいな縁組みが、
「……」
アルベリは、彼女に何と言ってやれば良いのか、分からなかった。
(──彼女を取り巻く問題は、原因を遡れば、その多くが人間の行いに帰結する)
(──そして、その片棒を、当然のことながら、自分も担いでいた)
(──『──魔族は人間ではない。故に、悼む必要などカケラもない』……そう、俺の心は叫んでいる。その思いに、さしたる曇りはない。……だが)
(──……何も感じないかと言われれば、それは真っ赤な嘘になる)
その時。
二人の間に漂っている気まずい空気を、ノックの音が断ち切った。
「──アークフィートちゃん。僕は魔王のディアボロスだ。入っても良いかな?」
若い、少年のような声が聞こえた。
「「ぇ?」」
出会って1ヶ月。
アルベリとアークフィートが、初めてシンクロした瞬間だった。
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