第10話:拷問生活:転機
アークフィートは、1日2回──昼下がりと就寝前に、アルベリの元を訪れる。
その度に、彼女はアルベリを痛めつける。
あるときは、何かを叫びながら。
あるときは、涙を浮かべながら。
指サックをきつく締め上げたり、鉄ごてを肌に焼き付けたり、爪を剥がしたり、蛇や蜘蛛を体に這わしたり……。幼子ゆえの残虐性を、アークフィートは遺憾なく発揮した。
たまにやりすぎて、アルベリが大声で苦悶したり、逆にぐったりしたりすれば、アークフィートは酷く動揺した。そんなとき、彼女は必死になって、彼の体に治癒魔法を唱えた。
極端に屈折し、果てしなく鬱屈した負の感情を、アークフィートはアルベリに、ぶつけ続けた。
*
「……イタィ?」
ある日のこと。
アークフィートは訊いた。両手には、鞭と蝋燭が握られている。
アルベリの体は、火傷と蝋が埋まった切り傷で満身創痍である。
「痛えよ。何度も言っただろうが」
「……」
申し訳なさそうに立っている彼女を見て、アルベリは嘆息する。
実を言うと、身体的なダメージは、そこまで重篤なものではない。
1日1回。彼女は御丁寧に、アルベリの体を治癒してくれるのだ。
筋力の低下と貧血、栄養失調は否めないが、瀕死の重傷ではない。
「コメ……、ヤサイ。モット、ヤキトリ……た?」
「ごめんなさい。ちょっと、やりすぎた。……か」
アークフィートは、コクリと頷いた。
彼の記憶が確かなら、こんな日常が、かれこれ1ヶ月は続いている。
暴力と暴力の間は、離れ家に隣接した犬小屋に押し込められている。
食事は1日2回。アークフィートが、水筒とパンを放り込んでいく。
手洗は1日3回まで。出したものは、ペットのキメラが食っていく。
この間は拘束を解かれるが、体格の良い下男に常時監視されている。
離れ家に移るときは、単眼鬼人族の少女2人に、魔法を掛けられる。
朦朧とした意識が晴れる頃には、離れの壁に四肢を固定されている。
髭剃りや散髪、風呂はない。これに関しては、軍隊生活と大差ない。
とは言え。
心理的な負担を考えると、いい加減、展望を開きたいところである。
アルベリは小窓を見た。今は夜中らしい。ミミズクの声も聞こえる。
「…………なぁ、アークフィート」
「……?」
「なんで、おれを、むちで、うつ」
「……?」
「さすがに伝わらないか……」
アルベリが首を捻っている間に、アークフィートは、あの分厚い魔道書を卓上で開いた。治癒魔法の時間には、少し早い。背中を向けているため、表情も窺えない。
「また、新しいお遊びか……?」
アルベリが用心していると、アークフィートはクルリと振り返る。
彼女はアルベリの前に立ち、何かの呪文を詠唱した。一呼吸置いてから、彼女は神妙な面持ちで、口を開いた。
「……。──アルベリ、さん」
アークフィートの言葉が、アルベリの脳内で、人語に翻訳された。
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