第4話:カイロサンドリア攻防戦:接敵


「街の外に味方はいないはずですが……」


 カインも、つられて目を凝らした。

 そして、唇を舐めてから息を吐く。


「魔族の群れですね……。こちらに向かってきています。数は、300……ぃや、500……? 違う。もっといますね……」


 徐々に、カインの表情が険しくなってくる。


「厄介なことになったな。こっちの本隊は海の上だぞ……」


 アルベリは呟いた。

 他の見張りも、南方から迫る敵の影に気付いたらしい。そして、にわかに動揺が走っている。


「落ち着け! ……」


 アルベリは現場の最高指揮官として、付近の部下たちに呼び掛ける。


「弓矢と投石の用意をしろ。良いか。魔族に大がかりな攻城兵器はない。1時間もやり過ごせば、敵は逃げていくっ!」

「「「はっ!」」」


 アルベリの指示に、諸兵が答える。

 アルベリは続いて、伝令係を呼びつける。


「今すぐ街に降りて、本隊と看護兵に敵襲を伝えろ。まだ乗船していない味方に、援軍要請を出せ」

「──了解っ!」


「……敵の第一次攻撃は、司令部の返事よりも先になりそうですよ」


 カインが言った。


「どうせ『追い払え』以外の命令は来ない。問題は敵の数だが……」


 月光に照らされた魔族──ゴブリンとオークの群れは、ゆうに1000を超えている。


「飛び道具の数には限りがある。ビビって外すなよ! 城壁の近くまで、敵を良く引き付けろ!」

「「「はっ!」」」


 アルベリは檄を飛ばしつつ、自らも弓を取る。


「敵は、まだ増え続けています。目視の範囲で、1500以上……?」


 カインの声が、若干裏返る。


「……10分もすれば援軍が来る。別に、凌げない数でもないだろう」


 アルベリは余裕を崩さない。


「──アルベリ隊長! 第一陣、来ます!」


 兵士の一人が叫んだ。


 アルベリは、弓に鏑矢をつがえ、放った。

 甲高い音に続き、大量の矢玉が放たれる。

 矢とレンガ、投槍と飛礫の雨霰が、ゴブリンやオークの戦士の頭上に降り注ぐ。

 鏃が風を切る鋭い音と、石が頭蓋を潰す鈍い音が、城壁の直下を血染めにする。


 しかし、魔族もやられてばかりではない。

 ゴブリン戦士はその俊敏性と華奢な体を活かし、イスタニア兵の飛び道具を避けつつ、城壁に張り付く。オーク戦士は青銅製の大盾を構え、ジリジリと前進する。


「珍しいですね。違う民族どうしで共同戦線を張るなんて……」


 カインは言った。彼は、投石具をぶん回している。

 三角巾で小石を緩く包み、片端を離して投擲する。

 小石は、高い初速で放物線を描き、オークの眉間に命中する。


「だな。今までの魔族は、ゴブリンはゴブリン、オークはオーク。それぞれ、部族単位で攻撃を仕掛けてきた。文化や価値観、体格、下手すれば言語も違う連中が、同じ『魔族にんげんじゃない』って理由だけで手を結ぶはずがない……。そういう説が常識だったんだが……。今回がレアケースなのか、それとも事情が変わったのか……」


 アルベリは語りながら、続けざまに二本の矢を放つ。

 直線的な射線は狙い過たず、ゴブリンの心臓を貫く。


 魔族の群れは仲間の屍を踏み台に、城壁の高さを克服しようと試みる。

 イスタニア兵は長槍や突き棒を振るい、屍の山を掻き混ぜ、押し崩す。


「──中隊長! 東から、敵の増援部隊です!」


 部下の一人が叫んだ。

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