イスタニア王国軍特命遠征師団

第2話:カイロサンドリア攻防戦:導入


*********



 ──7年前。


 ──魔界暦528年8月。

 無限の砂漠を大河が貫く土地──エジーダン地方。

 その最大都市にして港湾都市──カイロサンドリアにて。


「アルベリ隊長」

「何だ。カイン」


 満月の晩。

 篝火かがりびの弾ける音に混じり、男たちの会話が聞こえてくる。


 カイロサンドリアを囲う城壁の上で、人間の男が二人、街の南方を見張っているのだ。


「国に帰ったら、何したいですか?」

「さぁな……。田舎にでも帰るかな」


 カインの問いに、アルベリは素っ気なく答えた。


「良いですね。……娘さん、今年で確か、8才でしたよね?」

「良く覚えてるな。肝心の娘は、俺の歳なんて覚えてないぞ」


「あと一週間で三十路ですよね。僕はちゃんと覚えてますよ」

「さらりと答えるな。……恥ずかしい」


 アルベリは顔をしかめる。


「でも、羨ましい限りですね。俺なんて独身ですよ。独身! ……家に帰っても、待っているのは荒れた畑と病気の母ちゃんだけですよ」

「おいおい……。お袋さんのことは、ちゃんと大事にしてやれよ? ……そうだ。いっそのこと、帰る前に孫でも作ってやったらどうだ」


「ご冗談を! ゴブリンやオークの雌なんて抱けるわけないでしょう」

「……違ぇよ。家に帰る前って意味で言ったんだよ。……看護部隊や冒険者には、可愛い子も混ざってるんだろう? 誰が魔界で現地妻を作れと言った」


「ぇ……? ……あぁ、……そうですよねー! ……ぁはは。だいたい、この辺の魔族は全部殺しちゃいましたし……。俺の欲求不満、どんだけ溜まってんだって話ですよね……」


 カインは、誤魔化すように笑った。


「全く。……」


 アルベリは、無表情で息を吐いた。

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