@~*&年^<月*=日 その①
目が覚めた。あれ以後の記憶は無い。確認できたのは激臭粘液でベタベタの床と同じくベタベタ激臭の俺の顔だった。呼吸するだけで吐きそう。お風呂入りたい。隣の目覚まし時計に目をやると時刻は午前六時ちょうど、普段通りの起床だった。
朝食を取るべく二階に降りたのだが、そこで異変に気付いた。
親が、いない。
俺の親は基本的に寝坊や二度寝はせず、毎朝時間通りに起きて朝食を出してくれるのだが今日はいなかった。それだけならばあぁ、寝坊かな?と納得できるのだが不可解なことに寝室の扉が開きっぱなしになっていた。そこから覗く部屋の中に両親の姿は確認できない。母親は専業主婦だから朝に外出なんてありえないし、父親は会社勤めであるもののこんな早朝から家を出るなんてことは無い。その時、ふとあることに気付いた。
あの匂いがする。微かに、なんてものじゃない。はっきりと、鼻がひん曲がるくらいに。そう、まるで匂いの元がそこに在るかのように。不安に思った俺は自撮り棒を取り、その先に携帯を装着して扉の隙間から差し込んだ。慎重に、静かに。一瞬の暗闇の後に部屋の内部が画面に映される。それを覗き込むなり俺は言葉を失った。一切の感情が抜け落ち、あらゆる音が世界から消え去った。
「……………………………え?」
意識を取り戻した後の第一声がそれだった。まだ自分の目の前で一体何が起こっているのか
食っていた、のだと思う。およそ口であろう部位から母親の頭の半分が確認できた。その目は濁り、
傍らには父の下半身が転がっていた。両足はあらぬ方向に曲がり、腰はぺしゃんこになっている。そこから流れ出る血はまだ鮮やかだった。
俺に気付かず喰らい続ける正体不明の何か。
「……あ……あ………あぁ、………ぁ」
恐ろしさの余り腰が抜ける。視界は揺らぎ、耳鳴りがして、四肢の感覚が消え失せる。いま自分がどうなっているのかが分からない。立っているのかすらも怪しく感じられたその時、手から何かが滑り落ちた。それに意識が引き戻されるもあ、と思った時には既に手遅れで、重力に沿って落ちていく自撮り棒が見えた。ゴトン、と確かな音が響く。突如として訪れる静寂。粘着質な咀嚼音が止んだのだ。恐る恐る視線を匂いの主に移すと、そこには目の無い顔がこちらを向いていた。確かに目が合った、と思った刹那のこと、それはおよそこの世のものとは思えない咆哮をあげると、こちらに襲い掛かってきた。それは背丈が2メートルを越えるナメクジのような体に、表面には緑黄色の粘液をぬらぬらと光らせるクリーチャーそのものだった。
逃げないといけない。それはすぐに分かった。あれに襲われれば助からないと、きっと食われると。でも体が動かない。身体中の筋肉が限界まで硬直しきってしまっているせいか思うように動かせない。なんとか
もう、終わりだ。実にあっけない。まだ17年しか生きていないというのに。まだ童貞すら捨てられていないのに命を捨てるだって?ふざけるなよ。はらわたが煮えくり返るほど頭にきた俺はキッとバケモノを睨み付け叫ぶ。
「ふざっけんなド畜生がァァァァァァァァァッッッッ!!死にっ晒せェェェェェェッッッッ!!」
眼前にまで迫ったクリーチャーの大きく開かれた口を最後まで見ている。目を
親父の手だった。
まだ死んでいなかった。
切断された下半身から血が流れていたということは、切り離されたばかりということ。俺が二階に降りて来てから現在に至るまで時間にして十数秒。生きて、いた。一瞬、親父と視線が交わった。親父は苦しいだろうに、少しだけ口角を上げて俺に向かって微笑むと小さな声で、有無を言わさないほど強い口調で行け、と告げた。
ほんの数秒の出来事だった。でも、それで十分だった。心臓がドクンッ!と拍動し、全身に血が巡り始める。授けられたのはたった一言だけ、行け、と。
「………………!」
涙が溢れて止まなかった。でも泣いてる場合じゃない。膝に力を入れて立ち上がり、全力で走った。後ろから悲痛な叫びが上がるがもう振り返らない。玄関から飛び出て自転車に跨がりペダルを踏み込む。
目的地は、学校。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます