3.

第9話

 それから一週間ほどは、狩りの成果はさっぱりだった。赤ずきんの毎日の巡回は徒労に終わった。一度だけ小さな兎が罠にかかったが、それは換金するほどの獲物でもなかったので、自ら捌いて半分はその日の夕食に、残りは保存のために干し肉にした。森全体が、死んだように静かだった。赤ずきん以外の動物は、小鳥一匹、鼠一匹もいないのではないかとすら思えた。狩りが不調でも、赤ずきんの生活は変わらなかった。彼女は朝早く起き、一日かけて罠を見回り、日が暮れる前に小屋に帰り、大麦粥かライ麦パンを食べて床についた。その他にやる事と言えば、服や弓矢、狩りの道具などの修繕くらいだった。

彼女の生活には、およそ娯楽と呼べるものは無かった。しかし人間は、刺激の少ない環境で生活していると、その分周囲のわずかな変化にも敏感になるものだ。赤ずきんは、毎朝家を出る時に、その日の天気、気温、湿度、風向き、空気の匂いなどの微妙な違いを敏感に感じ取った。それはもちろん狩りに役立つ能力という側面もあったが、それ以上にそういった変化そのものが、彼女の代り映えのしない毎日におけるごくささやかな悦びでもあった。とは言え、彼女も狩人である以上、獲物を前にした時の興奮、それを仕留めた時の歓喜に勝るものは無いと思っていた。

だから、長い不調の時期の後に、罠の異変を発見した時は血が騒いだ。

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