第7話

 赤ずきんは、木製の大きなタライと乾いた布を持って井戸に向かった。布を井戸のそばの木の枝に掛けると、着ていたものを脱ぎ、タライの中に入れた。身体だけでなく、服もついでに洗ってしまう算段だった。裸になってしまうと、外の空気は思っていた以上に寒かった。彼女は、鶴瓶を使って井戸の水をくみ上げると、タライに水をぶちまけた。それを何度か繰り返しているうちにタライが水でいっぱいになると、自分の服を両手で濯いだ。井戸の水は冷たく、指先に刺すような痛みが走った。最初のうちは衣服の汚れが浮いて水がすぐ濁ったが、こういった作業を何度か繰り返すと、汚れはそこまで気にならなくなった。服を十分に洗った後で、今度は自分の身体の汚れを流す事にした。とは言え、その冷たい水を頭から被るのは、多少の覚悟が必要だった。少し躊躇った後、赤ずきんは思い切って水を被った。全身が氷のナイフで切り裂かれている様な感覚だった。身体中が激しく震え、全身に鳥肌が立つのがわかった。水の冷たさは想像を絶するものだったが、だからこそさっさと身体を洗い終わってしまおうと赤ずきんは考えた。彼女は、立て続けに二度、三度と水を被った。髪を濯ぎ、身体を清めると、木の枝に掛けてあった布を手に取り素早く身体を拭いた。寒さで歯がガチガチと鳴っていた。

赤ずきんは小屋に戻ると、裸のまま毛布をかぶり、暖炉に薪をくべ、火をつけた。しばらく炎の前で座っていると、次第に身体も幾分か温まり、身体の震えも収まって来た。粥を作るために、鍋に水と大麦を入れ、火にくべた。その時、炎の明かりに照らされて、左腕に青あざが出来ている事に気が付いた。恐らく、狩りで転んだ時にぶつけたのだろう。痛みはあまり感じなかった。ただ、彼女の白い肌にくっきりと見えるその青い染みは、何だか酷く不気味に感じられた。赤ずきんは、自分の左腕から目を背けた。

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