第5話
赤ずきんの放った矢は、正確に狼の眉間に直撃した。狼は、短い悲鳴を上げ、地に倒れた。赤ずきんは暫くの間、矢を放った姿勢のまま、油断せずに狼を直視していたが、それがもう動かないのを確認すると、ゆっくりと左腕を降ろした。終わり良ければ総て良し、である。途中で危うい場面もあったが、結果的に狼を仕留める事に成功したという事で、彼女は満足だった。
さて、ここからどうしよう、と赤ずきんは一人で考えた。確認しなければならない罠はあと二か所残っていた。この狩猟でだいぶ時間をかけてしまったので、それらは手早く済ませてしまわなければならなかった。当然ながら、狼の亡骸を持ち運びながら罠を回るというのは非効率的であると思われた。そこで、ひとまずこの狼の遺体はこの場所に隠しておいて、残り二か所の罠を確認してから、帰り道に遺体を回収する事にした。森は広く、人間は滅多に入らない。誰かに見つけられるなどという事はまず無いだろう、という考えだった。そうと決まれば、さっそく狼の死体を周囲の落ち葉や枝で隠してしまおう、と赤ずきんは回りを見回した。
しかしその前に、赤ずきんは一つだけ確認したい事があった。
彼女は、ポーチから一枚の小さな革を取り出した。その革には、大小いくつかの穴が開いていた。赤ずきんは、絶命した狼の口をこじ開けると、その歯並びを革の穴と比較した。両者は、一致しなかった。今回仕留めた狼の顎は、革についている穴から類推されるそれと比較して、明らかに小さかった。赤ずきんは、その日自分が仕留めた狼は探し求めている個体では無い事を悟った。
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