第3話
赤ずきんは、喜びと恐怖を同時に感じた。やはり狼だ!しかし、はたしてあの狼は罠にかかっているのだろうか?狼は、彼女が罠を仕掛けた大木の根本に伏せていた。ちょうどその体が邪魔になって、狼がはたして罠にかかっているのか、それともたまたまそこで一休みしているだけなのか、判断する事は出来なかった。もう少し近づいてみるしかなかった。赤ずきんは、それまで以上にゆっくりと、音を立てずに、弓はいつでも構えられるように警戒しながら、狼に接近していった。もし狼が罠にかかっていなかったら、そしてこの距離で狼に気付かれたら、赤ずきんにとっては狩りのチャンスどころか命の危機であった。狼に本気で狙われれば、例え弓矢を持っていたとしても、圧倒的に分が悪いのは赤ずきんの方だった。尤も、いずれにしても全く危険の無い狩りなどはあり得ないのだが。
狼に発見されないギリギリまで近づいてみると、どうやら狼が出血しているらしい事が明らかになった。狼の体にも、周囲の地面や木の幹にも、血痕がべっとりと付いていた。狼が罠にかかった可能性はかなり高まった。しかしまだ安心しきる訳にはいかなかった。一度罠にかかっても、その後で激しく暴れて罠が外れてしまうという事も、無いわけではなかった。罠が狼に食いついているのを直接目視出来ればそれが一番確実なのだが、やはり狼の体が邪魔になって、確認出来なかった。
赤ずきんは考えた。恐らくあの狼は罠にかかっているし、万一罠が外れていたとしても出血でかなり体力を消耗しているはずだ。弓矢でとどめを刺してしまおうか?とは言え、楽観論でリスクを冒すのは極力避けたかった。彼女の弓は、森の中でも扱いやすいように小ぶりに作られており、その分威力は控えめだった。一撃で狼を仕留めるためには、正確に急所に当てる必要があった。主君と名誉のために戦う戦士なら敵と相打ちになって命果てるのも悪くないのかもしれないが、狩人が森で獲物と刺し違えるというのはバカバカしい事だった。最大限自分自身の安全を確保して、事に当たるべきだ。しかし、時間も有限なのだ。確認しなければならない罠はあと二つあるし、日が暮れてしまっては帰り道も危険だ。とにかく状況を打開するためには、確かな情報が必要だった。赤ずきんは、もう少し狼をよく見ようと身を乗り出した。
その時、赤ずきんは足を滑らし、バランスを崩してしまった。
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