カメラ

ぺんぎりん

カメラ

「おまえ……こんなところにいたのか……」

俺は涙を流しながら、そう言った。


「おはよー! ごはんまだ?」

と娘のリコに起こされた。起こされるっていうのもあまり悪くは無い気がした。

 この子は、三年前に逝った妻との子で、もうすぐ六歳になる。妻は、横断歩道を渡っている時、赤信号で突っ込んできた車を避けきれず、病院に搬送され、その後死んだ。

 死んでから三年も経った。三年も経って、もう彼女のことなんか忘れていた。いや、忘れたかった……





「パパ〜! これ使っていい〜?」

リコが持っていたのは古いカメラだった。見たこともないカメラだ。

「もしかしたらママが撮ったデータが残ってるかもしれないから、それを消したらそのカメラをリコにあげるよ」

と、とりあえず言っておいた。見覚えはないが、その古さなら彼女が使っていてもおかしくはないと思ったからだ。

「パパ〜ありがとう! ところで、ママって、誰の?」
「……リコのだよ。前に言わなかったっけ」

「聞いた気もするけど、あんまり覚えてないなぁ〜」

確か、前にそのことを話したのは一年前だっけ。バイトの忙しさで話をすることをすっかり忘れていた。でも、自分が忘れるため、と思いつつも、リコに対して罪悪感を覚えたので、

「じゃあ、もしデータが残ってたら、リコ、一緒に見るか?」

「うん。見たい」


 ブラウザとゲーム画面を消し、カメラに入ってたSDカードを挿した。ゲームのセーブ忘れてたな、また途中からやり直しか、と思いつつ、ファイルを広げた。予想通り撮ったデータがあった。ファイル名は「旅の思い出」。最初の写真はどこかの空港の写真。写っている女性は若々しかった。五枚目ぐらいに、ようやく風景の写真になった。画像をブラウザで検索するとキラウエア火山と出てきた。次の写真は、若かりし頃の俺とさっきの女性とのツーショットだった。新婚旅行でハワイとかベタすぎるなとか、噴火したところに行ってたなんて縁起悪いなとか、両方が写真撮るの下手なのに、「記念用に一緒に撮りまくるぞー!」なんてふたりで言ってたっけとか色々思い出した。とりあえず全部ゴミ箱に送ろうと全選択するためにドラッグしていると少しスクロールところで、一つのフォルダを見つけた。名前は初期設定のまま。開くと、サムネイルに彼女の顔が写っているたくさんの動画で埋め尽くされていた。一番新しいのは、三年前の、今日。



 それから、彼女の動画を見まくった。一日中見て、三周目に入ったところで寝ていたらしい。起きたらパソコンがシャットダウンされていて、背中に毛布がかかっていた。隣を見ると、リコが近くのソファでもたれ掛かって寝ていた。時計を見ると八時過ぎ。自分も眠かったし、今日は日曜日だから、リコをベッドに連れて行ってあの日のように一緒に寝た。





 思い出したくなかった。昔の思い出を。

 なのに、見てしまったよ。君を。

 もう、また君を好きになってしまったじゃないか。

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カメラ ぺんぎりん @pengirin

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