番外編その20 衣織の音楽

 窪田学の娘。

 子どもの頃はそれが誇らしかった。

 でも、ピアノを習い始めたと同時にそれは、大きなプレッシャーとなって私の身にふりかかった。


 お姉ちゃんは、ピアノの才能があったのか、そんな性格だったのか、トントン拍子に音楽の世界で頭角を現していった。


 ……でも、私はダメだった。

 ピアノのが嫌いだったわけでも、音楽が嫌いだったわけでもない。

 ただ、私は窪田学の娘というブランド、そして天才少女、窪田詩織の妹という重圧に耐えられなかった。


 私は中学に上がる前にピアノをやめた。


 でも、音楽活動は続けた。

 アコギ一本で歌を歌いSNSに投稿する。

 これが私の新しい音楽活動だった。

 

 “ピアノはやめる! でも音楽は続ける! だからアコギ買って!”という、とんでもなワガママを受け入れてくれた両親には感謝しかない。


 姉も私がピアノをやめたことに対して、ケロっとしていた。

『嫌なことを無理やり続けると、ご飯が美味しくなくなるもんね』

 これがピアノをやめた私に姉がかけた言葉だった。


 1人で音楽をはじめると、今度は違うプレッシャーが襲ってきた。

 自分でやらなければ何も進まない。

 だから私は常に、走らなきゃ、走らなきゃと考えるようになった。

 

 競争のプレッシャーとはまた違うプレッシャー。

 敷かれたレールが失くなると、自分で歩き出さなければ道がなくなる。


 でも、私はこっちのプレッシャーの方が好きだった。

 

 だけど、私は自分の音楽に、常に物足りなさを感じていた。それはSNSで『いいね』をもらうたび、周りから評価される度に強くなった。


 高等部に上がってからは軽音部にも入った。

 音楽性の違いというか、私の拘りが強すぎたせいか、バンドには入らず、弾き語りスタイルで活動をはじめた。

 

 私の歌、音楽は学園でも認められた。

 文化祭のステージが評判で、学園のアイドルなんて呼ばれるようになった。


 でも、学園でも同じだった。

 評価されればされるほどに、満たされない気持ちが強くなる。


 私の音楽は迷宮入りしたままだった。


 

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