番外編その19 我慢するなよ 〜愛夏視点〜

 凛が帰ってきた。

 凛は鳴の双子の妹であり、私の親友だ。

 肉親のことを相談するのは悪いなと思ったけど、鳴のことは結構相談させてもらった。

 

 もちろん別れの事も……凛は『愛夏が辛いなら別れた方がいい』とアドバイスをくれた。

 その結果さらに辛くなるかもしれないと釘も刺された。

 

 鳴の事に関しては全て私の思惑通りに進んでいる。ギタリストとしての充実した日々。

 振り向かず、ただ前見て歩いている。

 

 私が居たかった鳴の隣には窪田先輩がいる。

 もう、戻れないことは分かっている。

 でも、気持ちはくすぶったままだ。



 ——そんなある日、凛は私に会いにきてくれた。


「久しぶり愛夏! 元気は……してないんだよな……」

「久しぶり、凛……まあ、元気は元気だよ」

「悪いな……バカ兄貴のせいで」

「ううん、気にしないで」

 凛が申し訳なさそうにしているのが、申し訳ない。


「あいつはさ、バカな上に鈍いんだ……しかもさ、子どもの頃からチヤホヤされて育ってるから、自己中なんだよ」

「自己中……」

 鳴はどちらかというと、優しくて物腰も柔らかい。……自己中だなんて思ったことないんだけど。


「兄貴はな、愛夏にフラれた事実、これからどうしようか……そんなことばっかり考えて、何でフラれたかまで、頭が回ってないんだよ」

「そっか……」

「愛夏……それにお前、兄貴に嘘ついただろ? 他に好きな人ができたって」

「う……うん」

「それは、まずかったよな」


 ユッキーにも同じことを言われた。

 でも……本当のことを話したら説得されそうで、私には言えなかった。


「なあ、愛夏……凛は今の兄貴の彼女も嫌いじゃないし、愛夏も親友だ。だから、どっちかのかたを持つなんて出来ないけどさ……」

「うん」

「もう我慢するなよ」

「え……」

 我慢? 何を?


「もう、その嘘をさ、胸にしまっておくのやめろよ」

「鳴に話せっていうの?」

「そうだ……」

「でも、そんなことしたら」

「大丈夫だ、兄貴は大丈夫だ……だから今度は自分のことを考えろ」


 自分のことを……いいのかな?

 私が自分のことを考えても。


「とりあえず、今度家に来いよ、凛がいる時にバカ兄貴に話してやろうぜ」

「凛……」



 ——私なんかがと、戸惑いながらも結局、凛のとりなしで、本当の気持ちを鳴に話すことができた。

 全部を話せたわけじゃなかったけど、随分すっきりした。

 鳴も私も、わだかまりが全部無くなったわけじゃない。


 でも、彼女としてじゃなくても、鳴の人生に関わるきっかけができた。


 私は鳴の最初のファン。

 

 だから今は……、

 だから今は、その事実だけで十分だ。


 ————————


 【あとがき】


 やっぱり凛が暗躍していたのですね!

 凛もちょと微妙でしょうね。

 凛もきっと納得していなかったでしょうから。


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