番外編その17 私はそんなに強くないんだよ 〜愛夏視点〜

 嬉しいことがあった。


 なんと鳴、がギターを持って学校に来たのだ。

 夢でも見てるんじゃないかと思って、ほっぺをつねってみたけど……夢じゃなかった。


 ついに、ついに、この日かが来た。


 なんて形容すればいいのか分からないけど、これが胸熱ってやつかと思った。


 ユッキーとの会話を盗み聞きした感じでは、鳴は軽音部に入るらしい。


 何がきっかけかは分からないけど、鳴が前に進んでくれるなら、こんなに嬉しいことはない。




 ……でも、そのあとが最悪だった。


 ……鳴と窪田先輩の噂。

 休み時間の度に、鳴に群がる男子達。


 なんなの? なんなのよ!


 ……そして昼休み、鳴を訪ねてきた窪田先輩に私はイラッとして……つい、噛み付いてしまった。


 そんなつもりじゃ無かった……でも、自分で抑えることができなかった。


 自分から鳴をフッておいて、私は鳴を窪田先輩に取られるのが嫌だった。


 窪田先輩は鳴を好きとは言わなかったけど、鳴のことが気になるそうだ。


 ……鳴は窪田先輩のことをどう思っているのだろう。



 ***



「よう愛夏!」

「ユッキー……」

 最近よくユッキーと帰りが一緒になる。


「よかったな、鳴がギターまたはじめて」

「う……うん」

 

「なんだ? 嬉しくないのか? 浮かない顔して」

 ユッキー……窪田先輩のことで落ち込んでるって、絶対知ってるくせに。


 わざとらしい。


「そりゃ、浮かなくもなるよ」

「なんで?」

 なんなのよユッキー……言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。


「そ……それは、聞かなくてもわかるよね?」

「そうだな……大体分かってる」

「分かってて聞かないでよ……意地悪!」


「う〜ん、そうだな……意地悪で言ってるかもな」

 やっぱりか……コノヤロウ!


「愛夏、やっぱお前……本当のこと鳴に話せよ」


「え……」


「嘘はダメだって、好きなんだろ? 鳴の将来のことを考えて別れたんだろ?」


「それはそうだけど……」


「愛夏……俺はな、お前達が無駄に傷つくのを見たくないんだよ、本当に好きなやつが出来て別れたのなら何も言わない……でも違うんだろ?」


 確かに違うけど……。


「俺が言いたいのはそれだけだ」


 何も知らないのに……何も知らないのに、勝手なこと言って……。


 私だってやれるだけの事はやったつもり、それでも上手くいかないから……。


「愛夏、お前絶対に後悔するぞ?」


 ユッキーに言われなくても、そんな事は分かってる。散々悩んだ結果だし、私もユッキーの意見に賛成だ。


 でも……、


 でも……、


 私はそんなに強くないんだよ……ユッキー。




 ————————


 【あとがき】


 分かっててもできないことってありますよね……。


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