番外編その14 狂い始めた歯車

 僕の快進撃は止まるところを知らなかった。破竹の勢いとはまさにこの事で、コンクールに出れば金賞。


 それが当たり前になっていた。


 輪の中心にはいつも僕がいた。



「音無って、また優勝したの?」


「まあね」


「すご〜い!」「本当に天才なんだね!」


 クラスの上位カーストの女子達にチヤホヤされるのも嬉しいかった。




「音無、次も優勝だろ?」


「当然だろ」


「さすがだな!」「お前すげーな」


 普段は僕と遊ばないような男子達に一目置かれるのも気持ちよかった。



「宿題忘れただあ? まあ、コンクールあったしな……仕方ないな」


 先生も宿題を忘れるぐらいは大目に見てくれた。




 皆んが僕を特別扱いする。


 僕はそれが当たり前の事だと思った。



「鳴くん金賞だって」「天才じゃないの?」「天才っているもんだね」

 

 友達も、周りの大人も僕を天才だと、もてはやした。


 最初は謙遜していた僕だったけど、いつの間にか、自分が天才だと信じて疑わなくなった。



 そして僕は、愛夏にギターを聴かせるのも忘れ、安らぐ場所を失っていった。




 ——「音無鳴! あんたの快進撃もここまでや! ウチが今日で終わらせたる!」


 僕に挑戦する者は後を経たなかった。


 ……だけど、


「くそっ、なんでや!」


 それでも僕は結果を残し続けた。


 もはや国内には敵無しで、父さんのつてで、海外のコンクールにも参加するようになった。

 

 海外のコンクールは国内のそれとは、大きく異なり、盛り上がりが凄かった。騒ぐとかそんな意味じゃない。


 コンクールにかける熱量が違うのだ。


 ギターに対する社会の評価が違う国で、金賞を取った時は賛辞の声と等しく怨嗟の声もあがった。


 正直怖かった。


 何故、こんな怖い思いをしてまでギターを弾かなければならないのか、分からなかった。


 そんな僕の様子を見て、家族は心配した。


 特に、父さんは海外遠征の中止を提案してくれた。


 でも、僕は辞められなかった。


 今海外遠征を中止したら逃げたと思われる。


 皆んなに笑われる。


 そんな風に感じるようになっていた。


 称賛の声が僕を狂わせた。


 

 ……逃げ出したい。


 でも逃げ出すと、僕は特別じゃなくなる。


 ……負けるのが怖い。




 ……もう自分ではどうしようもなかった。


 怖くても無理やりにでも、前に進むしかなかった。


 

 そんな僕の運命を解放したのは、1人のフランス人の少女だった。


 アン・メイヤー


 ……後に彼女は『世界一美しい旋律を奏でる、世界一美しいギタリスト』と呼ばれることになる。

 

  

 ————————


 【あとがき】


 プレッシャー……才能を発揮するには若すぎたのか?


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