番外編その12 片鱗〜音無仁視点〜

 永遠の探求者、それが音楽家だ。


 まあ、音楽家に限らず何かを極めようとする者は、すべからくそうなのだろう。


 俺は天才なんて呼ばれているが、自分の事を天才だと思ったことは、1度もない。


 凡人が地べたを這いつくばり、もがく、それが俺だ。



 だが、順風満帆ではあった。


 負けたくない切磋琢磨するライバルの存在はあったが、他人の才能に嫉妬することなど無かった。


 今日までは……。


 我が息子、音無鳴。


 つい最近まで、ギターに触れた事など無かったコイツが、簡単な曲なら譜面も見ずに即興で弾けるぐらいに、成長してやがる。


 俺が教えたのは、ドレミファソラシドと、それに対応する簡単なコードだけだ。


 それを、コイツは毎日毎日飽きもせず弾き続け、それだけでは飽き足らず、自分で音を探し、自分の音楽を作り上げていた。


 まだ、成長しきっていない、小さな手で弾けないコードは、右手を使って補助していた。


 誰にも教えられるでなく、自分で工夫してだ。


 俺はここまで、楽曲に対して貪欲だっただろうか? 音に対して貪欲だっただろうか?


 俺ならきっと固定観念にしばられ、鳴のような弾き方はしない。


 技術的にはまだまだだ。


 だが、鳴は自分のギターは自由だ。


 音楽を生業にしている俺でも、ワクワクしてしまう、どんなフレーズが飛び出してくるか分からない玩具箱のようだ。


 鳴ならもしかすると、俺の辿り着けなかった高みに到達するかも知れない。


 だが、良いのか?


 息子が俺と同じ苦しみを背負うようになっても……。


「どう、父さん、いい感じだった?」


 技術的にはまだまだだ。


 お世辞にも上手いとは言えない。


 だが、凄い。


 鳴のギターは凄い。


「駄目だった?」


「いや、そんな事はない。1人でそこまで弾けるようになるなんて大したものだ」


「え、父さんが教えてくれたじゃん」


 俺はギターの弾き方なんて、教えていない。音を教えただけだ。


「まあ、いいや、これからも僕にギター教えてね」


 ギターを教えるか……。


 出来るのか? 凡人の俺がこの天才に教えることなんて……。


 だが……不安とは裏腹にワクワクする。


 この天才を自分で育ててみたい。


 どこまでの高みに到達するのか見てみたい。


 窪田が言ってた凄いプレイヤーを見ると、抑えられなくなるってのは、こう言うことだったのか。

 

「分かった、明日から本格的に教えてやる」


「本当!」


「ああ、本当だ」


「楽しみだな」


 ……鳴はもしかしたら、もう既に探求者なのかも知れない。


 いずれにしろ、息子の成長が楽しみだ。



 ————————


 【あとがき】


 実は親バカです。


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