番外編その11 何か違う

 新しいメロディーを覚えては、愛夏に聴いてもらう。僕にとってのギターの楽しみ方はこれだった。


 最初は緊張でうまく弾けなかったけど、回数を重ねるたびに緊張はなくなり、愛夏の前で色んなメロディーを弾けるようになった。


 鼻歌で歌えるような簡単なメロディーだったら、即興で弾くこともできた。




 ——そんなある日、


「鳴のギターって鳴パパのギターと何か違うね」


「やっぱそうだよね」


 僕も何となくそんな気はしていた。


 何が違うかは分からないけど、愛夏の言ったこの一言で、僕は自分のギターに物足りなさを感じるようになった。



 ***



 そしてある日、


「父さん、僕も父さんみたいなギターを弾けるようになりたい」


「うん? 父さんみたいなって何だ? ドレミファソラシドは弾けるようになったのか?」


 父さんはジッと楽譜を眺めて、僕への受け答えは片手間だった。いつもならそんな事は気にならないのだけど、


「弾けるようになったから、見てよ!」


 今日は僕を見て欲しかった。そして父さんと僕のギターの違いを知りたかった。


「そうか、じゃぁ聴かせてみろ」


「うん!」


 僕は、ドレミファソラシドの成果を父さんに聴かせた。いろんなポジションのドレミファソラシド、リズムを変えたドレミファソラシド、愛夏に聴かせるために覚えたメロディ、全部父さんに聴かせた。


 父さんは、ポジションを変えたドレミファソラシド辺りから、楽譜を手放して、僕がギターを弾くところをじっと見ていた。


「鳴、それは全部1人で覚えたのか?」


 全部弾き終わると、父さんが問いかけてきた。


「うん、そうだよ」


「そうか……」


 父さんは、何か考え込んだかと思うと、いきなりギターを弾きはじめた。


 僕が愛夏に聴かせたメロディーを、父さんが弾いてくれた。


 僕が弾くギターと父さんが弾くギターは全然違った。


 僕のギターは父さんのギターと比べると、とても薄っぺらかった。


「鳴が弾きたいのは、こう言うギターなのか?」


「うん! それ!」


「そうか……なら今度は和音を覚えないとな」


「和音?」


「同時にいくつかの音を鳴らすことだ」


 そうか、僕のメロティーは1音ずつしか鳴らしていなかったけど、父さんはいくつも鳴らしているのか。


 このあと、父さんは和音の弾き方を教えてくれた。


 なかなか、綺麗に音がならなかったけど、めっちゃ楽しい、ワクワクが止まらなくなった。



 ——この日から、僕の練習は和音になった。


 父さんに教えてもらった和音を全部覚えた僕は、自分で音を探していろんな曲を和音で弾いた。


 単音でメロディーを弾いていた時よりも全然楽しかった。



 ——そして、その成果を愛夏に聴かせた。


「凄い鳴! 格好いいし、音も大きくなったね! 鳴パパみたい!」


「だろ! めっちゃ練習したもん」


 めっちゃ嬉しかった。


『凄い』『格好いい』って言ってもらえることが、こんなに嬉しいだなんて……。


 最初は聴いてもらえるだけど嬉しかった。


 でも……この日、褒められることの喜びを僕は知った。




 ——そして、その夜、僕は父さんに今までの成果を聴かせることにした。


 この何気ない決断が、これからの僕の運命を変えるとも知らずに。



 ————————


 【あとがき】


 褒められて伸びた子なのです!


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