番外編その10 目覚め

 何となくいつも一緒だった。好きか嫌いかでって話になったら、もちろん好きだ。


 好きでもないヤツといつも一緒とか、僕には無理だ。


 誰の事かって?


 もちろん幼馴染みの愛夏の事だ。


 ご近所さんという事もあって、愛夏はよく家に遊びに来ていたのだ。


 愛夏は、僕の父さんがギターを弾いているのを見るのが好きだった。


 そして愛夏が発した言葉が僕の運命を大きく変える。


「鳴のパパってカッコいいね」


 僕がギターを始めるきっかけはもしかしたらこれかも知れない。


 僕の中で、父さんがギターを弾くのは当たり前の事で、特別な事とは思っていなかった。


 でも、その父さんを見て愛夏がカッコいいと言ったのだ。


 ……父さんってカッコいいんだ。


 子どもながらに衝撃を受けたのを覚えている。


 そこから僕の認識も変わった。


 父さんがギターを弾くイコールカッコいいに……。


 それから僕は父さんがギターを弾いているところをよく見る様になった。


 ぶっちゃけ最初は退屈だった。


 何で愛夏はカッコいいとか言ったんだろうと思った。


 確かに指がカニのように動いて面白いとは思ったけど、カッコいいとは思わなかった。


 知らない曲ばかりの父さんの演奏は、子どもの僕には退屈だった。


 そんなある日、父さんは僕のよく知っている、アニメの曲を弾いてくれたのだ。


 カッコいい!


 めちゃくちゃカッコいい!


 僕もギターを弾けるようになりたい!


 その日から僕は、父さんにアニメの曲をリクエストするようになった。


 父さんはいつも嬉しそうにそれを聞かせてくれた。


 そしてある日僕は決断した。


 僕もギター弾くと。


 父さんは古いギターを1本僕にくれたけど、ドレミファソラシドしか教えてくれなかった。


 僕は練習した。


 毎日毎日手が痛くなるまで練習した。


 父さんが教えてくれたドレミファソラシド以外にも、いろんな場所でドレミファソラシドが弾けるようになった。


 くる日もくる日もドレミファソラシドを弾いた。


「父さんみたいにギターを弾けるようになりたい!」


 その答えとして、父さんが教えてくれたのはドレミファソラシドだけだったからだ。


 普通なら飽きてしまうのだと思う。


 毎日、ひたすらドレミファソラシドを弾いているだけなのだから。


 でも、僕は飽きなかった。


 ドレミファソラシドの音の長さを変えて、いくつものパターンを作り繰り返し練習した。


 そんなある日、音の順番を入れ替えてみた。


 上手くは弾けなかったが、愛夏が鼻歌でよく歌っていたメロディーを弾けるようになった。

 

 だから父さんはドレミファソラシドを弾けって言ったのか!


 実際には違うが、この時の僕は本気でそう思っていた。



 僕は嬉しくなって早速、愛夏に聴いてもらった。


 1人で練習しているときは、そこそこ上手く弾けたのに、愛夏の前だと間違えてばかりだった。


 これが緊張ってやつなのだろうか。


 でも、そんな拙い僕の演奏を愛夏は笑顔で楽しそうに聴いてくれた。


 なんだろう……この気持ちは。


 ただギターを聴いてもらっただけなのに。


 なんとも言えない高揚感が僕を包み込む。


 僕は思った。


 もっと欲しい。



 この日を境に、僕はギタリストとしての道を歩み始めた。


 

 ————————


 【あとがき】


 これが、鳴の巻き込まれ型ラッキスケベストーリーの始まりです!


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 よろしくお願いいたします。


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