番外編その2 鳴の動画練習

 僕は早速、練習に動画を取り入れた。


 普通にやってよかった……つか、もっと早く始めていればよかった。


 今まで自分が、いかにヌルい演奏をしていたのかよく分かった。


 動画にはその場の空気やノリは反映されない。

 

 見たまま、聴いたままの全てが記録されている。


 これまでの僕は、ライブならではのプラスアルファに助けられていただけで、賞賛されるようなギタリストではなかったのだ。



 これは僕のおごりだ。


 

 ——そして、やってみてよかった反面。


 ……必要以上にへこまされた。


 音の立ち上がり、輪郭、粒立ち、滑らかさ、あらゆる面が期待値以下だった。


 目立たないミスも多いし、タイム感も甘い。


 課題が浮き彫りになり過ぎて、逆にどこから手をつけていいのか分からなくなった。


 ミスらないように丁寧に演奏すると抑揚のない演奏になる。


 抑揚を意識しすぎると演奏そのものが荒くなる。


 何度やってもうまくいかなった。




 そして僕は気付いた。


 プレッシャーだ。


 完璧な演奏を撮ろうとする変な下心が体を強張らせ、酷い演奏になってしまうのだ。


 要は気取るなということだ。



 ——僕は頭を切り替え、リラックスして演奏することを心がけた。


 それと同時に集中だ。


 動画はごまかせない。


 取り繕うな。


 ブランクがあってもいい。


 そんなことを気にせず、もっとありのままの自分を……。


 当然のことながら、1日で成果が出るような甘いものではなかった。


 でも、日を追うごとに、僕のプレイはよりクオリティの高いものに変わっていった。


 結局、納得のいく状態に仕上がるまで、1週間かかった。



 その頃にはバンドの練習でも成果が現れていた。


 今まで以上にグルーヴ感がうまれ、キメのフレーズなんかは自分でも気持ちいいぐらいだった。



 そして、僕的に1番上がったのが凛の言葉だ。


「あれ? 兄貴急に上手くなった?」


 ギターを再開して以来、エモいとか凄いとかの褒め言葉はあっても、上手いと言われたのは、はじめてだった。


 動画練習。


 一時はどうなることかと思ったが、本当にやってみてよかった。


 皆んなにも是非やってもらいたいと思い、動画練習をオススメしたら。


「え、動画練習? とっくにやってるわよ」


「あーしも」「私も」


 どうやら『織りなす音』で動画練習を取り入れていなかったのは、僕だけだったようだ。



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