番外編その1 鳴の憂鬱
織りなす音がメジャーを目指すことになった。
つまり、僕はまた、プロギタリストを目指すことになるということだ。
プロギタリストの夢……1度は諦めた夢。
また目指せることになったのに、気分が晴れない。
怖い……。
これが正直な気持ちだ。
今の僕は、あの頃の僕とは違う。
衣織も時枝も穂奈美もいる。
ひとりじゃない。
だから同じ失敗は繰り返さないとは思う。
でも、不安がないといえば嘘になる。
3年のブランクも僕を不安にさせる要因の一つだ。
もっと簡単に取り戻せると思っていたのに……さっぱりだ。
それでも我慢強くレッスンをつけてくれている凛に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
とりあえず、今のままではダメだ。
このままでは、僕の理想とする音楽に届かない。
衣織という特別な才能を活かせるギタリストになれない。
実力というのは一朝一夕で手に入るものではないことは分かっている。
でも、気持ちだけが焦ってしまう。
それでも好材料もある。
父さん、凛、アン、朝子さん。
現時点の僕よりも実力が上のギタリストから、一定の評価を受けていることだ。
皆んなの夢を背負う。
やりがいはあるがプレッシャーだ。
僕は打ち勝つことができるのだろうか?
——僕は不安を拭えなくて、久しぶりにSNSの動画を漁った。
衣織の歌をはじめて聴いたのもSNSだ。
ギタリストに絞って検索した。上手いギタリストがゴロゴロいた。
つか、上手すぎる。
なんで皆んなこんなに上手いんだ?
何か特別な練習方法でもしているのだろうか。
僕は動画を漁り続け、1人のギタリストに目が止まった。
特筆すべきところは何もない。
でも、僕はそのギタリストの動画から目が離せなかった。
なぜなら……上達速度が尋常じゃないからだ。
そして僕は気づいた。
なぜ彼の上達速度が尋常でないかを……。
それは毎日動画をアップしているからだ。
そうか……毎日動画を撮ることで、プレイの状態を客観的に確認できるからだ。
それだけじゃない。
アップするということは聴かせる、見せることを前提とした演奏だ。
必然的に練習の密度が上がるのだ。
これしかない。
僕はSNSにギター動画をアップすることを決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます