第177話 やっぱり離さない 〜衣織視点〜

 鳴と付き合い始めて半年ほど経った。


 普段は少し頼りないところもあるけど、誠実で、いざという時には頼りになる私のパートナー。今の私に鳴のいない生活は考えられない。


 休みの日も含め、ほぼ毎日一緒にいる。


 こんな日々がいつまでも続けばそれが1番幸せなんだろうけど……。


 私はそろそろ進路を決めなければならない。



 大学に行くのか、プロ1本に絞るのか……バンドである以上、正直私だけで決められない。


 でも時枝や穂奈美に結論を急がすわけにはいかない。


 鳴はまあ、運命共同体だしマスターのお墨付きも貰ったし、私の道に付き合ってもらうことは決定事項だ。





 この件とは全く関係ないのだけれど、鳴と付き合っていてひとつ疑問に思うことがあった。


 鳴の元カノ、愛夏さんは鳴の依存が酷く、端的に言えばそれが原因で別れたと言っていた。


 でも、実際に鳴と付き合ってみて、鳴が私に依存していると感じることは殆ど無かった。むしろ近頃は、私の方が鳴に依存しているのでは? と思うぐらいだ。


 人はそんなに簡単に変われるものじゃない。


 もしかして……依存していたのは鳴じゃなくて、愛夏さんだったんじゃないだろうか。


 だとすれば、2人の恋愛は本当に悲恋だ。


 ま、今カノの私が考えても仕方のないことだけど、気にならないと言えば嘘になる。




 それにしても、最近の鳴の成長は凄まじい。


 凛ちゃんとアンの影響が大きかったのはわかるけど……。


 同じ音楽家としては嫉妬してしまうレベルだ。


 人の凄さってのは具体的にどうとかじゃなくて、なんとなく雰囲気で感じることも多いと思う。


 でも、鳴は違う。


 具体的にすごい。


 フレーズがエモい、作り出す空気がすごい、テクニックが凄い、牽引力が凄い、安心感が凄い、安定感が凄い。


 枚挙にいとまがないというのは鳴のためにあるような言葉だ。



 フェスで優勝できたのは私に圧倒的な華があるからだと鳴は言う。


 それはそれで嬉しいことだけれど、実際は違う。


 鳴の作り出した空気だからこそ、実力を発揮できたのが本音だ。


 鳴がメンバーにいることの安心感は半端無いのだ。



 日本を代表する作曲家であり、世界的なピアニストである私の父、窪田学が私たちにメジャーを目指せと言ったのも頷ける。


 鳴を埋もれさせるのは音楽界の損失だ。


 私ですら、鳴の才能を活かせるかプレッシャーを日々感じる。




 そういう意味では鳴という原石を音楽界に返した、愛夏さんの功績は大きい。


 私たちが成功することによって、鳴と愛夏さんの悲恋もなんとなく救われるような気もする。



 私はこれからも鳴を離すつもりはない。



 私はシンプルに鳴を愛している。


 それだけだ。


 

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