第176話 絢香の悪ノリ 〜朝子視点〜

 最悪や……人生で今日ほど恥ずかしいと思った日はない。


 

 今日は音無鳴とのギターレッスン。



 やのに……なんで……なんでこんな格好してるんや!


 

 そう……全ては……絢香あいつのせいや!



 ——話は昨日にさかのぼる。


「ねえ朝子、明日って音無鳴のレッスンやよね? どんな格好していくの?」


「え、どんな格好って普通にパーカーにデニムのつもりなんやけど?」


 やれやれって顔をする絢香。


「つまんない女だな」


「つまんない女って……いきなりなんやねん!」


「朝子、音無鳴のこと気になってるよね?」


 い……痛いところを……でも、そんな事言えるわけない。


 だって、アイツには。


「あ……あほう! アイツは彼女おんねんぞ! き……気になるわけ」


「私は気になるんだよね」


「え……」


「歌姫から奪っちゃおかな?」


 ま……マジか。そんなんありなん?


 いやいやいや、ありなわけあらへん!


「そ、そ、そ、そんなんあかんに決まってるやん!」


「えーなんで? まだ結婚してないんだし……いいんじゃね?」


「あかん言うたらあかんねん!」


「ま、私は明日も少し誘惑しようかな」


 明日は綾香も一緒に結衣の家にお泊まりする事になってる。


「誘惑?」


「あいつ、地味にエロいじゃん。だからちょっと露出多めのミニスカ履いて行ったらコロッと落ちそうな気がしない?」


 な……なんやて!


「そ……そうなの?」


「なんなら試してみたら?」


 ミニスカでギター……。


 あかんギターでミニスカはあかん!


 モロやん! まるで露出狂やん!


「あかん! 絶対あかん! 見せてるようなもんやん!」


「何言ってんの朝子?」


「え」


「見せるのよ!」


 な……なんやて!


 み……見せるのよだと……。


 な……なんで見せる必要が?


「音無鳴、きっと喜ぶと思うよ。これからお世話になるんだし、それぐらいサービスするのが常識だよ」


「そ……そうなん?」


「大阪女しけてんなーって思われちゃうよ」


 な……なんやて!


 それはあかん!


 大阪女しけてるとか絶対あかん!



「ウチ……ミニスカ履く……」


「さすが朝子」



 ——完全に口車に乗せられてもうた……。


 肝心の音無鳴も目が泳いどるし……。


 恥ずかしい……帰りたい!



 結局この日はサービスどころか、意識しすぎてビンタまでする始末や……教えてもらったもんも、なんも頭に入ってへん。


 でも、片鱗みたいなもんは感じた。


 アイツの基礎練習……ついていけんかった。


 柔軟性。


 もしかしたらアイツの武器はそれかもしらへん。



 でも……。


 ……何を思い出しても恥ずかしさが先に立つ。



 もう、ミニスカは履かへんと心に決めた。

 


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