第173話 誕生日プレゼント

 今日は……衣織の誕生日だ。 


 バイトもしていない僕ができることは限られているけど、この日ために僕なりにプランを考えた。


 できれば物としても思い出としても残る、僕にできる最大限、心のこもったものを贈りたいと思っている。



 衣織は喜んでくれるだろうか。



「ねえ鳴、行きたいところってどこなの?」



 サプライズってほどのこともでもないんだけど、衣織には今日のことは内緒にしている。


 最初から問題発生だ……どうしよう……素直に話すか、なんとか誤魔化すか。


「り……凛にお使い頼まれちゃってさ」


 苦し紛れに凛をだしに使ってみた。


「そうなんだ、凛ちゃん最近会わないけど元気してる?」


 普通に誤魔化せた。


「うん、元気だよ。元気すぎるぐらい」


「たまには遊びに来てって言っといてね。最近は朝も別だし」


「うん」


 そう、凛は最近、朝も別行動なのだ。因みに愛夏と一緒だそうだ。



「衣織ちょっと待ってね」


 入念に下調べはしたが、はじめて来る場所だからもう一度スマホで確認した。


 道はあってる。目的地までもうすぐだ。






 ——「ここだよ」


「ん、ここって?」


「今日僕が来たかったところ」



 そう、今日僕が来たかったのはこのお店。



 なんと、手作りでペアリングが作れちゃうお店なのだ。


 もちろんその日のうちに持ち帰えれる。


「いらっしゃいませ」


「予約していた。音無です」


「お待ちしておりました」


 飛び込みでも大丈夫らしいが、念のため予約しておいた。


「衣織?」


 衣織が立ち尽くしたまま動かない。もしかして……手作りのペアリングとか重かったのか。



「嫌だった?」



「バカ、そんな事あるわけないじゃない」


 満面の笑みを浮かべる衣織。よかった、いつもの衣織だ。



 僕のリングは衣織、衣織のリングは僕が作る事にした。


 はじめての作業で不安だったけど、店員さんが、丁寧に教えてくれたおかげで思ったよりうまく出来た。

 

 ただ、衣織は思ったより不器用で、僕のリングの仕上がりは思ったより……。


 ま、今日の主役は衣織だ。


 僕の出来が良ければ良しとしよう。





 ——つちめ仕上げという、専用のハンマーで叩いてディテールを付ける方法で仕上げた。


 ここでも衣織は不器用っぷりを発揮していたが、世界にひとつしかない、ペアリングが完成した。



 そして仕上がったリングをお互いの薬指にはめた。


「いいね! お2人さん! 記念に写真撮ってあげようか? もちろんサービスだよ」


 店員さんは既に一眼レフを構えていた。


 僕と衣織は顔を見合わせて。


「「おねがいします!」」


 店員さんは兼業でプロカメラマンもやっているらしく、写真のクオリティーは凄かった。


「ねえ、せっかくだからチューショット撮る? 記念日なんでしょ?」


「「え」」


「衣織……」


「うん……」


 頬を赤らめる衣織……まんざらそうでもなさそうだ。


「誕生日おめでとう、衣織」


「ありがとう、鳴」


 チューショットを撮ってもらった。


 ちょっと恥ずかしかったけど。


 それもいい思い出だ。


 

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