第144-2話 魂と華の裏で 〜朝子視点〜

 ウチが今まで1回も勝てんかった音無鳴、音無凛。


 バンドを始めたのあいつらに勝つためやない。


 でも、今日は今までで最高のステージやった。


 勝てる……今日こそあいつらに勝てる。




 ——ウチがそう思っていられたのは、あいつらのステージが始まるまでやった。



 

 音無鳴はステージに上がるとイキナリ1音1音に魂を込めたイントロを披露し、バケモンっぷりを発揮した。


 ……こんな大舞台、こんな緊張する場面でなんであんなにも自由に弾けるんや。


 圧巻のステージは続いた。


 音無鳴のギターにつられるように他のメンバーもポテンシャルを発揮してる。つか皆んなどんなレベルで音楽やってんや……自分ら高校生やろ?


 ウチはまず『織りなす音』の演奏レベルに圧倒された。


 そしてトドメに……。



『『ワァァァァァァァァァ——ッ』』



 歌が入った瞬間観客のボルテージが最高潮に高まった。


 なんやこのお姉ちゃん! プロか!


 他の出場校のときにはなかったボルテージで観客席が応える。まるで有名アーティストの野外ライブや。


 凄い……ほんますごい……でもこんなテンションで一曲もつはずあらへん!


 そう思ってたのも束の間。


 ステージ上にあった張り詰めた空気を音無鳴が一気に解放し、見事にオーディエンスを一体化させた。




 悔しかった。



 本当は泣くほど悔しかった。



 ウチもボケーっと音楽をやってきたわけやない。真剣に取り組んできた。



 バンドを組むようになってからは、音無兄妹に勝ちたいってよこしまな気持ちも捨てた。



 でも、なんやこの圧倒的レベル差は……。



 ボーカルの歌姫は圧倒的な華がある。


 もうスター性といってもいいやろ。



 でも……。



 それを引き出してるんは音無鳴や。


 ……これがエモいってやつか? グルーヴ感ってやつか?


 音無鳴の演奏はよくよく聴くと荒い。


 むしろギタリストとして完成されてるんは、音無凛の方や。


 こいつはこいつで凄すぎて直視できひん。正直ぶるってしまう。


 ギタリストとして高次元に行っとる。もうアマチュアの大会にでたらあかん人や。



 ……でも。


 ウチが目を離されへんかったんは音無鳴や。


 ……音楽は技術だけやないってことか。



 悪魔のようなテクニックをもっていたギタリストが、こんなにも変貌を遂げているとは思ってもみんかった。



 ……完敗や。



 悔しさしかあらへん。



 ……でも。



 いつか音無鳴を超えると心に決めた。


 


 ————————


 【あとがき】


 ちょっと前の話ですが、決勝戦の朝子視点を書いてみました。 


 後ほど144.5話として修正します!


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