第168話 鳴の織りなす音

 観客数は結構いるのだが、演劇部の公演が終わり観客席がやや散漫だ。


 このままでは、いい感じでライブに入れない。


 穂奈美や時枝はセッティングに時間を結構使う方だ。ここは僕と衣織で盛り上げるのがいいだろう。


 僕は普段より少し、音量を上げ超高速トリルで観客にその存在をアピールした。トリルは2つの音を交互に鳴らすだけのシンプルなテクニックなのだが、超高速となるとそれなりの練度が必要となる。


 そして超高速になると聴き耳にも見た目にも派手だ。


 狙い通り観客の注意が僕に集まりだした。


 でも、まだまだだこんな散漫なオーディエンスでは最高のステージがつくれない。


 普段の音量にもどし、ソロエレキギターで使われる、難易度の高いテクニック、スウィープやタッピングで幻想的なフレーズを繰り返し演奏した。


 そして徐々に速度を上げる。


 曲芸とも思えるこの演出で、オーディエンスの意識が舞台に集中し始める。これについては女装も功を奏しているはずだ。


 そして僕のフレーズに合わせ衣織がハミングでメロディーを重ねてきた。




 この時を待っていた。




 僕はフレーズを続け、衣織のメロディーに合わせハミングでハモリを入れた。


 2人のが創る、幻想的な空間の完成だ。


 女装で恥だけかくなんてまっぴらごめんだ。


 女装だからこそのアドバンテージを使わせてもらう。


 幻想的な伴奏、そして優しく憂いをまっとったハーモニー。


 静かなテンションながらも会場に一体感が生まれつつある。


 そして、セッテイングの完了した穂奈美がスネアのゴーストノートを利用した素朴なリズムで演奏に参加してきた。


 穂奈美のドラムは、シンプルに聴こえるのだが再現するのは難しい玄人好みのドラムで、僕はいつも感心している。


 リズムが入ったことにより体を揺らす観客もチラホラでてきた。


 最後に、ここぞというタイミングで時枝のベースが加わった。


 時枝はフレットレスの特徴を生かしたウネリのあるサウンドで、僕たちの即興演奏を支え、その低音から奏でられるメロディーで美味しいところを持っていった。


 即興演奏でオーディエンスの温度感はかなり仕上がった。


 そろそろ頃合いだ。


 僕はメンバーにアイコンタクトで『織りなす音』の開演を告げた。


 学園祭史上に残る熱いライブがはじまった。



 ————————


 【あとがき】


『織りなす音』の進化を見せろ!


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