第167話 学園祭その2
『男女逆転コンテスト』は大盛況だった。大盛況だったのだが、いまいち盛り上がりに欠けた。
それは僕がぶっちぎり過ぎて、誰が優勝するかのワクワク感に欠けたからだ。
これは結衣さんメイクをベースに、徹底的にブラッシュアップを重ねた、五十嵐さんの功績でもある。五十嵐さんは僕の優勝が嬉しかったのか、優勝の瞬間僕に抱きついてきたほどだ。
とにかく僕は『男女逆転コンテスト』で見事クイーン? キング? の座を勝ち取った。
小さい頃からたくさんのコンテストやコンクールで優勝してきた僕だが……。
こんなに嬉しくない優勝ははじめてだ。
それでも五十嵐さんは屈託のない笑顔で喜んでいた。結衣さんメイクを超えるために、日々努力を重ねていた成果が報われたのだから、喜ぶ気持ちは僕にも充分わかる。
でも、あんなに頑張っていてくれたのに、素直に喜べなくて……ごめん。
——結果が出たからと言って、油を売ってはいられなかった。
これからが僕の本番なのだから。
そしてこれも予定通り……メイクを落としている時間はなかった。
凛が抜けた新生『織りなす音』はギャルバンとしてスタートすることになる。
とりあえず僕はライブ会場である体育館へ急いだ。
——「遅くなりました!」
「うお! 音無か?」
「はい」
「結局そのままで出るのか?」
「……はい」
「あははは、いい思い出になるなあ!」
古谷先輩は結構本気で喜んでいた。古谷先輩はこのバージョンの僕がお気に入りのようだ。
出番は
『織りなす音』
『すっぴん』
『Air Ash』の順。
軽く音出しだけで、リハなしのぶつけ本番だ。
そうこうしている間に演劇部の公演が終わり、いよいよ僕たち軽音部『織りなす音』の出番だ。
「鳴、バンマスとして一言お願い」
バ……バンマス……。
バンマスとはバンドのリーダーのことだ。僕たちは今まで特にバンマスなど決めずにやってきたのだが。
「師匠、よろしく」
「音無くんファイト」
なんか、僕の方がすでに励まされてる感がある。
「とりあえず、いつも通りで! いつもの僕たちが最高だから!」
『『おーっ!』』
あんまりこういうの得意ではないから、あれでいいのか不安になる。
「ていうか、師匠がいつも通りじゃないよね」
「それがいつも通りなら、流石に私も考えるわ」
「ある意味いつも通りの音無くん」
「あはは……」
ある意味いつも通りのクオリティに落ち着いた。
朝子さん、木村さんも大阪からわざわざ見にきてくれている。
格好悪いステージはできない。
気合いが気負いに変わりそうなシチュエーションだが、僕は落ち着いていた。
これが積み重ねの力だと気付くのは、僕がもう少し大人になってからだった。
————————
【あとがき】
新生『織りなす音』ファーストライブです!
本作と舞台を同じくした新作を公開いたしました。
『幼馴染みもアイドルのクラスメイトも憧れの先輩も居ないインキャな僕にラブコメなんて似合わない。』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897223156
今回登場した五十嵐さんも登場しています。
是非とも応援お願いいたします。
本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、
★で称えていただけたりフォローや応援コメントを残していただけると非常に嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます