第169話 伝説のステージ

 穂奈美のカウントから入るこの曲は、この日のために書き下ろしたライブ向けの新曲だ。


 アレンジは極力シンプルにし、音圧を高め曲に勢いをつけることを意識している。



 ——僕たちは音圧と曲の勢いに負けないぐらい、ステージングも鍛えた。


 ぴったりと息の合った、サウンドとステージパフォーマンスでオーディエンスを視覚と聴覚から刺激する。



 その結果。



 オーディエンスのボルテージが一気に最高潮まで達した。


『『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』』


 観客席からのエナジーがすごい。軽音フェスのステージにも負けていない。


 僕たちの曲は楽曲としての完成度が高い反面、求められる技術が高く、ステージパフォーマンスが犠牲になることも多かった。



 だが、この曲は違う。



 今までの経験を活かしオーディエンスと一体になるために作った曲だ。


 何処をどうアレンジすれば、オーディエンスに最高の体験を与えられるか、徹底的に研究した。


 イントロは中々の手応えだった。


 だがここからが本番だ。


 イントロが終わり、衣織の歌が入ると、僕と時枝と穂奈美は少し引き、オーディエンスを引きつける役割を衣織に任せた。


 僕たちが引いたことにより、衣織の『華』がより強調され、観客のボルテージが落ちることはなかった。


 アンに教えてもらったことがうまく活かせている。




 ——衣織の歌を聴き、いろんな思いが巡る。


 少し前までの僕は、ギターにも恋愛にも絶望していた。


 入学した時はこうやって学園祭のステージに立つことなんで想像もしていなかった。


 でも今は……今はギターが楽しくて仕方ない。




 もちろん恋愛もだ。




 今にして思えば、あの頃の僕は、知らずしらずの間にプレッシャーに押しつぶされていたのかも知れない。


 誰に強要されたわけでもなく、自分で始めたことなのに変な話しだ。


 でも今は違う。


 




 プレッシャーが心地いい。






 プレッシャーが心地よく感じる理由も分かっている。

 


 


 素晴らしい仲間に恵まれたからだ。


 


 

 『織りなす音』のメンバーだけじゃない。


 部活の仲間、ユッキー、アン、凛……そして愛夏。


 みんなが居たから今の僕がある。



 性格はあれだけど、懐の深い時枝のベース。


 もしかしたら嫌われているのかもしれないけど、大好きな穂奈美のドラム。



 

 そして暗闇に差し込んだ一筋の光。




 衣織。





 ——皆んながいれば僕はどこまでも行ける。


 それがメジャーであっても、世界の舞台であっても。


 僕はこのステージでそんな予感めいた物を感じていた。




 そして感情の赴くまま暴れまくったこのステージは、


 『織りなす音』を語る上で欠かせない伝説のステージとなった。






 もしも……。





 もしも願い事がひとつだけ叶えられるのなら。








 女装なしで伝説のステージに立ちたかった。







 伝説のステージは、僕の伝説の黒歴史でもあった。


 



 ————————


 【あとがき】


 プロローグから含めて全170話で第一章終わります。


 章とか付けてないですけどね!


 クリスマスもバレンタインも例の続きもメジャーへの道もあるので、当然まだまだ完結いたしません!


 でも少しだけ休憩いたします。ちょとインプットします!


 ちなみに本作「小説家になろう」にも進出いたしましたのでご報告いたします。


 必ずパワーアップしてすぐに帰ってきますので、少しの間お待ちください!


 本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、

 ★で称えていただけたりフォローや応援コメントを残していただけると非常に嬉しいです。


 よろしくお願いいたします。



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