第160話 衣織のお仕置き

「ねえ衣織、僕の女装についてどう思う?」


 帰り道、時枝と穂奈美もいたが、気になっていた女装の件を聞いてみた。


 衣織は少し困った顔をしていた。


「鳴はなんて答えて欲しいの?」


 予想もしていなかった答えが返ってきた。


「いや、なんてと言うか……衣織の正直な気持ちが知りたくて」


 衣織はまた困った顔をしていた。


「まあ、正直微妙だとは思うよ」


 微妙……また微妙な答えが。


「微妙って?」


「だって、手放しに賛成するのも変でしょ? でも彼氏が場の空気を壊すのも嫌なもんじゃない?」


 実に衣織らしい答えだと思った。


「あーしは嫌だ!」「私も」


 時枝と穂奈美まで参戦してきた。


「だって……師匠の女装……完成度高すぎるもん!」


「それそれ、ちょっと許せない」


 衣織とは別の理由で微妙なようだ。


「あは、私はそれよりも、女装のときに結衣たちにデレデレしてるのが嫌かな」


 お……おう……これは問題だ。僕としてはそのつもりは無いのだけど……。


「確かに音無くん鼻の下伸ばしすぎ」


「うんうん、師匠スゲーだらしない顔してる」


「気をつけます……」


「男の子だからね。女の子にチヤホヤされて嬉しいのも分かるけど、もう少し彼女がいる自覚は持ってね」


 彼女がいる自覚か……僕としては衣織を第1に考えているつもりなんだけど。


「鳴、そんなに背伸びしなくてもいいわよ?」


「背伸び?」


「私に気を使ってそんなこと聞いてきたんでしょ?」


 まあ、そうなんだけど……皆んながいると答えにくい。


 あっ、だから衣織は最初、困った顔をしていたのか。


 衣織の方を見ると『やっと気づいたかこいつめ』みたいな顔をしていた。


「私はね、今の鳴が好きよ」


 やばい、キュンとした。でも2人の前で……この展開は予想外だ。2人もドギマギしている。


「鳴が私に一生懸命なのは、すごく分かるの……でも鳴はとっても不器用」


「衣織……」


「恋愛だけじゃないよね、鳴は人付き合いが不器用」


 これは……今の状況指して言ってくれているのか。


 これは僕がデリカシーなさ過ぎたかもしれない。


 2人の時に聞くべき質問をみんながいるときに……これは衣織のお仕置きだな。


「ごめん……この話はまた別の機会にします」


「分かればいいのよ。ごめんね時枝、穂奈美……」


「「あ……」」


 2人は既に顔が真っ赤で衣織の言葉が届いていなかった。


 デリカシー……これからはちゃんと意識しようと思った。


 

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